「――結局、逢えなかったじゃねぇか、嘘つきが」

 彼女が住んでいたときのまま残る部屋の中窓を開け、窓辺に腰かけながら窓枠にもたれるようにして天を仰いだ。
 口をついて出た口調は思いの外柔らかく、自分の口角も僅かながらにあがっているようだった。
 恨みったらしい言葉を吐いたものの、存外己の最期は穏やかで、悪い気はしなかった。
 彼女を待っている時間は思い出に包まれていて、苦いばかりではなかったからかもしれない。

 夕日に照らされる中、金木犀の香りが鼻孔を擽る。
 秋の訪れを知らせ、同時に彼女との出逢いを想起させる香り。そして幾度となく繰り返される季節の中、重ねた彼女との時間がアルバムをめくるが如く頭を過る。
 目を瞑り、その香りを堪能するように深呼吸をした――……