「――それがお前にとって、やっと見つけた唯一の逃げ道だったんだろ?」


 淡々とした口調で、彼はそう言う。
 何も答えられずにいるわたしに、彼はわたしの顔を覗き込むようにしてしゃがみ込んだ。


「もがいてあがいて、ようやく見つけた息継ぎの方法がそれだった、ってだけだ」


 わたしの頭が少し重くなり、優しい温もりを感じる。彼は僅かに口角をあげた。


「息するのに必死なんだから、他の方法なんて見つけられるわけねぇだろ。そんな焦るな」


 頭を優しくぽんぽん、と撫でる彼に、全身の強張りがほどけていくような気がした。それと同時に、視界が徐々に潤んでくる。

「余裕ができたら、気が向いたら、その時他の方法を探してみればいい」

「……その時って、くるのかな」

 気づけば、そんな弱音を零していた。
 あまりに今の状態は苦しくて、早く脱却しようとすればするほどその苦しみを感じる。途方もない膨大な感情の処理ができる日がくるのかと、不安になっていた。

 しかし彼は、その不安を呆気なくかき消す。

「あぁ、くるさ」

「どうして、断言できるの?」

「“今”がずっと続くわけないから。実際、俺と出逢って、状況は少し変わったろ?」