「びぃぃっくりしたなぁもう!!! なんでいんの?!」

「なんでって、死神だから?」

「いや、でもさっき別れたばっかじゃん! その時何も言ってなかったし、いると思わないじゃんっ」

「それが何か問題なのか?」

「わたしの! 心臓に! よくない!!! 来るなら事前に教えてっ」

 半ば叫ぶようにそう言うと、彼は顎に手をやり少し考えた後「わかった、次からそうしよう」と言った。


 ――正直、この瞬間の自分は一番どす黒く醜い状態だから、誰にも見せたくなかった。

 よりにもよってこの瞬間を、まだ知り合って数時間しか経っていない彼に見られるなんて……。


 気まずさに俯くと驚いた拍子に口から離れてしまったらしい煙草が、虚しくも足元に転がっていた。
 まだ火はついていなかったらしい。貴重な一本を失ってしまった。

 思わず二つの意味で深い溜息が出る。

「意外だな、煙草吸ってるなんて」

「……どうして?」

「あまりお前から煙草の臭いはしなかったから」

 可哀想な煙草を拾い上げ携帯灰皿へと入れながら、わたしは彼の言葉に苦笑を浮かべながら言葉を返した。

「別に煙草は好きじゃないしむしろ苦手なほうだから、そんな吸わないよ。そもそも吸い始めたのだって、つい最近だし」

 首を傾げる彼にわたしは、はっきり言わないと彼には伝わらないよなぁと、諦めたように白状する。


「元カレの置き土産」