眉間の皺は少しずつ深くなって、徐々に息が荒くなると同時に、彼女の頬は大粒の涙によって次々と濡れていく。

「なんでっ……」

 その先の言葉が出てくることはなかった。彼女の様子を見るに、言えなかった、に近いのかもしれない。
 その代わりに出てきたのは、彼女が抱える葛藤の渦だった。

「そうだよ……、そうじゃないとやってらんないもん。だって誤魔化すしかないじゃん。好きって感情が大きすぎるのに、叶わない。行く宛がないの。頭ではわかってるのに、馬鹿みたいに期待して、勝手に傷ついてさ。逃げたいのに、逃げらんなくて。その度に、自分がどれだけ彼を好きかが嫌と言うほどに痛感するんだ」

 最初は、爆発そのものだった。
 怒鳴るように、けれど子どものように泣きじゃくりながら吐き出して。

「……どんなにしんどくても、どんなに苦しんでも彼が返ってくるわけじゃないのにさ。どうなっても勝手に時間は進むし、なんとかやっていくしかないなら、いつか時間が解決するまで、抱えるしかなくて」

 燃え上がった炎が雨に打たれて徐々に弱まっていくように、徐々に小さくなっていって。

「でも、いつまで……? いつまで抱えて、耐えなきゃいけないの……? でもそんなの、誰にもわからない。じゃあ、“大丈夫”って意味もなく言い聞かせて自分を騙すしかないじゃん。“大丈夫”って、笑って、その“いつか”が来るまで、なんとかするしか、ないじゃん――……」

 鎮火したそれは、虚しさへと姿を変える。
 それでも彼女の頬から滴る雫が止むことはなかった。