強く抱き締められ、頭を優しく撫でられる。イヅナは少し戸惑いながらも、よく知った人の温もりに心が落ち着いていくのがわかった。

「……少し痩せたな」

「まあ、ずっと閉じ込められてますからお腹があまり空かないんですよ」

「ならこの潜入が終わったら鍛え直してやる」

「ほどほどにお願いしますね」

あはは、とツヤが声を出して笑う。その顔は農園の冷酷な職員ではなく、アレス騎士団の隊員の顔だった。

「ところで、この部屋はどんな部屋なんですか?」

「ここは見ての通り実験室だ」

ツヤの仕事は、うまい肉を作るための研究をすることらしい。そのためにこの部屋でうまい肉の遺伝子を持った精子の研究を行い、人間の女性に受精させるフリをしながら情報を集めているそうだ。

「妊娠したとゴブリンたちに思わせるために、吐き気を引き起こす薬を使ったり妊娠陽性の検査キットを準備したり、なかなか大変だぞ」

「そうなんですね。私はまだ何も情報は入っていません」