「本当ですか? 嬉しいです、ではさっそくお祭りへ向かいましょう!」

 美琴は司の手を引っ張ると、祭り会場へと案内したのだ。まるで、運命の人と出会ったかのように、満面の笑みを浮かべていた。

 それは、きっと特別な日になると感じていたからだ。美琴は女神であるが、初めて人間に恋をしてしまったのだ。


 祭り会場についた二人は少し緊張していた。なにせ、つい数分前に初めて会ったのだからいた仕方がない。しかし、緊張とは裏腹に二人の手はしっかり握られていて、片時も離そうとはしなかったのだ。

「司様、何か食べたいものとかございますか? ここでは人間の世界とは違って、お金なる物は存在せず、自由に食べてよろしいのですよ」
「そ、そうなんですか。神様が食べてる物・・・・・・恐れ多くて食べるのに抵抗がありますね」
「もう、司様っ! わたくしにはそんな言葉使いではなく、もっと親しいお言葉でお願い致しますっ。それと、神様と言っても食べ物に差はありませんよっ」

 美琴は口を膨らませながら司に八つ当たりしていた。初めて恋に落ちた美琴にとって、司には砕けて接して欲しかったのだ。

 本来、神様は崇められるものであるが、美琴は司にとって特別でありたいと思っていた。

「わ、分かったよ美琴。神様にこんな口の利き方でいいのかなって思うけど、美琴が望むなら・・・・・・そうするよ」
「ありがとうございます、司様。それでは、気を取り直してお祭りを楽しみましょう」

 美琴は司を連れ回していた。屋台を端から端まで手を繋いだままずっと。りんご飴やチョコバナナを貰い、食べながら屋台を見て回ったのだ。

 初めてのデートに美琴の心は幸せに満たされていた。こんな時間がずっと続けばいいと思っていたのだ。だからこそ、神々の世界でのルールを忘れていた。

 それは、司にとって運命を選択すると言っても過言ではなかった。