「あたしさ…」

小さく息を吸った結華お姉ちゃんが静かに話し始めた。

「中学生の頃、怜と付き合ってたんだよね」

「えぇ!?」

いきなりの暴露に涙もピタッと止まり、大きく目も口も開いた。さらりと口から洩れた衝撃事実に動揺が激しかった。

「え、おにっ、お兄ちゃんと!?付き合ってたの!?」

「そう、ちょっとの間だけね」

えーーーーっと驚くばっかで何から言えばいいのか、それぐらいありえない事だと思っていた。
仲は良いと思ってたけど、付き合うとかそんな…もはや涙なんてどこへ行ったのか行方不明。

「結華お姉ちゃん、怜お兄ちゃんのこと好きだったの…?」

「うーん、好きと言えば好き!…だけど実際はよくわかんなく付き合ってたかな」

「えっ、ますますわかんないっ」

「だから続かなかったのかもね」

綿棒を使って私の爪からはみ出たマニキュアを拭き取った。

「怜のことは好きよ。でもそれは恋人じゃなくて、大事な幼馴染としてー…今も変わらず好きよ」

「う、ん…」

「なんてゆーの、ほら!いつも一緒にいるわけじゃないけど、最悪私がいる!みたいな」

「…?」

結華お姉ちゃんが微笑んだ。

「一緒にいることは義務じゃないし、縛ってはダメよ。だけどね、無理に離れる必要もないのよ。恋人じゃないからってそんな悲しいこと言わないで、変わらない関係だってあるの」

にこりと私を見て。

「あんたたちには一緒に過ごして来た16年間があるでしょ?」

「うん…」

「あんたが1番わかってるじゃない、奏志だってわかってくれるわよ」


ずっと一緒だった。

だからこの関係がなくなってしまうのが怖かった。

私の気持ちを言ったら、全部なくなっちゃうんじゃないかって…それが怖くてしょーがなかった。

だからずっと秘密にしておくつもりだった。


「それに、あんたが泣いてるのを見る方が双子は何より嫌だと思うけど?」


でもそれは私に勇気がないだけだったんだ。


「うん…っ」

「ほら出来た!」

結華お姉ちゃんがやってくれたネイル、お姉ちゃんとおんなじキラキラしたピンクゴールドに小さな石が散りばめられている。

「かわいいー!ありがとう!」

「どういたしまして」

キラキラと輝くネイルを両手を広げて見つめる。

「結華お姉ちゃん、ありがとう」

「これぐらい簡単よ」

「ううん…、聞いてくれてありがとう」

「ふふっ、それぐらいいつでも聞いてあげるわ、私はあんたのお姉ちゃんだから!」

ちょっとだけ勇気が出た。

結華お姉ちゃんにしてもらったネイルを見るだけでそう思えた。

「あっ芽衣、ちゃんと言いなさいよ」

「言うよ、奏志に」

「そっちじゃなくて!…ちゃんと言わないと手遅れになっても知らないからね!」

「え?」

「好きなんでしょ?大志のこと」

自分で言っておいてあれなんだけど、人から言われたらさらに恥ずかしい。だってこんなこと誰にも言ったことなかったトップシークレットなんだから。

「…それはまだ言う勇気がない~!」

「なんでよっ、もう流れで言っちゃいなさいよ!ついでよ、ついで!」

「言えないよ~!!!だって大志は私のことなんて思ってるかわかんないじゃん~!!!」

「あんた…、そんだけ一緒にいてなんでわかってないのよ」

結華お姉ちゃんが頭を抱えながらため息をついた、わぁっと泣きわめく私に。

「双子はいつでも同じものを好きになってたでしょ?」