キス、それはたぶん奏志が顔を近付けただけ。

本当はしてないけど…

見られてたんだ!

一気に顔が熱くなった。
かぁっと頬が染まっていくのが自分でもわかった。

やばい、何これ…

恥ずかしい。

「見るつもりなかったんだけど、ちょうどドア開けたらそうだったてゆーか、やべって思ってすぐ閉めたんだけど!」

見られてたなんて…、恥ずかしさから俯きスカートの裾をきゅっと握った。

「そーゆうのは言ってよね。俺空気読めてないみたいじゃん?」

笑って私から視線を逸らした。
その横顔に寂しく思った。

「だから俺帰るわ!」

すくっと立ち上がって、机の上に置いてあったヘッドホンの掛かったリュックを背負った大志。

「じゃあ、芽衣は待っててやりなよ」

ばいばいと私に手を振る。
空気の冷たい教室は物寂し気に隙間風が入り込む。

「…付き合ってない!」

ガタンッと音を立てて私も立ち上がった。

「てゆーかキスもしてない!たぶんあれは、なんてゆーかそう見えただけ!してない!」

なんか無駄に声が大きくなっちゃって、隣の教室まで聞こえちゃってたかもしれない。

「…そーなの?」

「そうだよ、付き合ってない!全然ッ付き合ってないし付き合ったこともないし!」

「え、いやっ、そこまで聞いてないけど!」

小さく深呼吸をする。

「…本当だよ」

少しだけ声が震えた。

「「………。」」

「…そーなんだ~!びっくりした~!俺マジで空気読めない奴じゃんって思ってた!」

「たまに本当に読めてないけどね」

「おい!」

大志が笑うから、私も一緒になって笑った。

今の私はこうやって笑い合うのが精一杯。

大志と目を合わせて、精一杯だ。