20xx年10月、バイトが終わり、私はいつも通りに、バイト仲間と気の向くままカフェでドーナツを食べていた。
今のバイトは某アパレルショップで、終わる時間は遅く21時を回っていたが、この時間に食べる甘いものは格別なのでやめられない。
そんな欲望に負け倒して、今日も適当に声をかけた人と共に出向いた。

そして今日は、その声をかけた子が話したいことがあると言う。
何かあったのか尋ねると
「バイトの先輩から告白された!」らしい。
彼女のバイトの先輩というのは、もちろん私のバイトの先輩だ。
当然、顔も知ってる人だから、そりゃ驚いた。
「え!そうなの!いつから??」
「1週間前♡」
「うわぁ〜、最近じゃん。とりあえず、おめでとう。」
「とりあえず、ってなに(笑)でもありがとう」

目の前の彼女は確かに幸せそうだった。
嬉しそうに、恥ずかしそうに、先輩との馴れ初めを話す。
もちろん、こういう話は好きだ。年頃だし。
彼女が楽しそうで嬉しい気持ちと半分に、羨ましいと思う気持ちがある。
私にも彼女のような時期があった。
そのことをふと思い出した。
付き合いたては誰でもテンションが上がり、周りが見えなくなりがちだ。
そういう気持ちはわかる。

「ごめんね、私の話ばっかりして」
「いいよいいよ、涼子が楽しそうでよかった」
「さくらはなにもそういう話はないの?」
「うーん…」
なんていらんことを聞いてくれるとは思わなかった。
でも話せることなんて何もない。
もし今自分に彼氏がいたら一緒に話せただろう。
ただ一つ、色濃く残ってる記憶が、私の中の奥底から込み上げてきた。

「中学2年の時初めて付き合った彼氏がいたけど、半年で終わったよ(笑)」
そしてその彼のことを、まだ忘れられないでいる。

その後1時間ほど、冗談話も交えて話して、明日はお互いバイトのため解散をした。
明日のバイトには例の先輩もいるもので、出来立てカップルの初々しさを楽しみにしてると伝えて、それぞれ家路に着いた。

帰宅して、寝る前に今日少し話した「彼」のことを考えた。

彼は今どうしてるだろうか。
当時の彼は、独特な空気を漂わせていた。
一言で言うと、「危険人物」
中学生にして、周りから噂されるような人を危険人物と決めつけるような私にも問題があっただろうが、彼は近づくと怪我をしそうな、巻き込まれそうな雰囲気を出していた。
でも反面、そういう「危なそうな人」に惹かれる自分もいた。
そんな彼と付き合うことができた当時は、今日の涼子のように、テンションが上がって周りが見えてなかった。
考え始めると、徐々に思い出してくる。
彼の顔、声、匂い、話し方、目つき、笑った顔…
今日口に出すまでこんなに考えることはなかったが、「会いたい」という想いだけが心に張り付いて、ずっと心の片隅にいる存在。
地元が同じなはずなのに、道ですれ違うこともなく、まったく目にしない間、数えてみれば5年も月日が流れた。
もう会えないのだろうか…
もし会えるのなら、また私は…。
「会いたい」と考えるほど、「会えない」という現実が胸を締め付ける。
悲しい。辛い。寂しい。恋しい。
…やめよう。これ以上会えない人を考えるのは。
時刻は0時を過ぎていた。夜更かしはいいことがないし、今日はもう寝ることにしよう。