律くんの口からでた「理央」の名前に、うまく反応できなかった。頭ははっきりしているはずなのに、言葉が出てこない。



「理央を避けてるんだよね」



「避けてないよ」



「じゃあ、なんで昨日先に帰ったの? 朝だって、愛乃こんな早起きじゃないでしょ」



いつも起こしてもらっている私が二日連続で早く行くなんて、おかしいよね。言い訳をもっとちゃんと考えればよかったなぁ。

数分前の自分を恨んだ。

「早起きの練習」と、苦し紛れに答えた。



「愛乃は嘘つけないんだから、無理しなくていいのに。それとも俺には言えない? 」



私に嘘はつけなかったし、律くんに隠し事はできないのかな。



「えっと」



すべてを話してしまおうか、どうしようかと迷っていると「昨日先に行かれて寂しかったな」と律くんの声が聞こえた。まるで猫が飼い主にすり寄って甘えるような声。私は律くんのその声に弱かった。迷いが揺らいでいく。