「だって、好きな人には優しくするって」



「何それ」



「前に理央が言ってたよ」



「あっそ。てか、愛乃には関係なくない」



「関係あるもん。私の幼なじみと友達のことだもん」



「人の気持ちも知らないで」



理央の声が低くなった。急に腕を掴まれて引き寄せられた。唇に柔らかいものが触れ、キスされたと理解するのに時間はかからなかった。



「は」



なんでいきなりキスするのとか言いたいことはたくさんあったのに、これ以上言葉が出てこない。踵を返して、理央の部屋を飛び出した。静かにけれど素早く階段を駆け下りる。一階に降りたったときに誰かとぶつかった。



「ごめんなさい」



「愛乃ちゃん」



早く理央の家から出ようと、踏み出した足を止める。ぶつかった相手は理央の兄、真央くんだった。



「どうしたの。理央が何かした? 」



心配そうに聞いてくる真央くんに、理央にキスされたから逃げてきたと言えるはずもない。



「何もないよ」



これ以上何も聞かれたくなくて、お邪魔しましたと一言言って家を出たのだった。