「彼女が千原くんの」



私にちらりと視線が向けられた。

何か言われるんだろうかと、思わず律くんの腕に抱きついた。



「うん、俺の彼女」

「証拠見せて」



彼女はそう言い放った。



「証拠か」



律くんはしばらく考えて、私の名前を呼んだ。

反射的に律くんのほうに振り向くと、頬に柔らかいものがあたった。



「律くん」



突然のキスに驚いて、思わず律くんの顔を見る。

それはまるで、いたずらが成功した子どものようだった。



「これで、信じてくれるかな」



律くんは彼女と向き合って言う。



「そっか、千原くんに彼女がいるなら、諦められる。わざわざ、ごめんね。彼女さんも」



彼女は再び、私に目を向けた。

こくり、と頷く。



「これからは友達として、よろしくね。千原くん」



彼女はそう言って、教室を出ていった。