もう逃げ場がなかった。追いかけっこは幕を閉じた。

理央がゆっくりと近づいてきて、腕を掴まれた。

目の前に理央がいる。こんなに近いのはあの日以来だった。

掴まれた腕が熱かった。心臓の鼓動が早くなる。これは走っていたからなのか。それとも。



「愛乃、こっち見ろよ」



いつもよりドスのきいた低い声。

今まで避けてたこと、怒ってるのかな。



「腕、放して」

「したら、逃げるだろ。あからさまに避けやがって」



やっぱり、怒ってる。そんなこと言われたら顔あげられないよ。

ただ、掴まれた腕を見るしかなかった。



「ごめん……」



顔合わそうとしなかったり、声かけられても無視するように逃げたりするのはだめだったよね。



「でも、理央も悪いんだからね」



久しぶりに理央と目を合わせた。



「俺の何が悪いんだ」

「……理央がいきなりキス、してきたから」



今すぐ、掴まれた腕を振りほどいて逃げてしまいたい。