「真島さん、行きましょう」

「は、はい」


 先導して歩き出した西田さんの後を追い、エレベーター前では一歩後ろに立つ。
 彼の背中を眺めながら思ってしまう。さっきまで親し気に話していたのに、急に敬語で話されて「真島さん」とか言われてしまうと。
 やっぱり私達は住んでいる世界が違うのだ、と言われているみたいで。

 ……少し壁を感じてしまって嫌だな、と思ってしまった。


 一階に到着したエレベーターに乗り込み、扉が閉まった瞬間。お互いに顔を見合せること数秒、どちらともなく「ぷーっ」と噴き出した。

「あー、ドキドキした!」と大きく息を吐き、緊張をほぐすように伸びをした西田さんは。私を見ながら「優羽がドジしないかって、内心ヒヤヒャしてた」と白状するから。「私なりに結構頑張りましたよ?」と反論してみる。

 腕を組みエレベーターの壁にもたれかかった西田さんは「うん、演技うまかったね」と、褒めてくれた。


「直前まで普通に話してたのにさ、優羽に対して敬語使えるかなって、俺の方が少し自信なかったんだよね。あー息苦しかった」


 なんだ。壁を感じたり息苦しいと思っていたのは、私だけじゃなかったんだ。
 同じことを思っていてくれて、ちょっと嬉しいかも。