何を言い出すのかと思えば、開いた口が塞がらない。重要な人事を自分の私欲のためにフル活用してどうする!

 半分冗談だとはいえ内心嬉しい。
 でも、そんな気持ちを気づかれたくなくて「なに言ってるのよ」と誤魔化すようにポカッと隆好の頭を小突く。


「痛ってぇ」

「そんなことより、裕隆さんのことだけど」


 言いかけた私の声を制止するように、スマホが鳴った。隆好の腕からすり抜けスマホを手に取ると、「副社長室」とディスプレイに表示されていた。

 思わず振り向き、隆好が部屋に居ることを確認する。煮込んでいたビーフシューを私の目を盗み味見している隆好が目に留まった。

 じゃあ、誰からの電話だというのだろう。

 誰からかも分からない電話に、若干警戒しながら電話を繋ぐ。電話の向こうからは「もしもし?」と隆好の声が聞こえた。


「あれ?」


 再び振り返ると。そこには味見続行中の隆好が居たから、やっと電話主が裕隆さんからだと分かった。


「どうしたんですか?」

『アンタに言われてから、ずっと考えてたんだけど……』