「なにマジになってんだよ。冗談だって」


 裕隆さんの言葉に思わず顔を上げる。私を見下ろしている裕隆さんは、垂れ目になって私を見て笑っていた。


「隆好の女に手を出す程女に困ってねぇし」とか何とか口にしながらも、右腕が伸ばされ。壁に手をついた裕隆さんと壁に挟まれてしまい、無意識にも身構えてしまう。


「まぁ、アンタが隆好から俺に乗り換える気になったなら拒否はしない」


 思わずそう口にした裕隆さんの頬を力任せに平手打ちしてしまった。きっと鬼のように怖い顔をしていたに違いない。

 バチンと大きな音が鳴り、裕隆さんは叩かれた頬に手を当てると「あれだけ忙しくしている隆好だからな。前にも言ったけど、満足できなくなったなら何時でも相手位はしてやるよ」などと、追い打ちをかけるような言葉を吐いた。


「失礼なこと言わないで!」


 隆好から裕隆さんに乗り換えたりしないし。満足できないなんて思ったこともない。
 どんなに仕事が忙しくても、隆好は私に関して手を抜いたことなんて無いんだから。

 怒りに任せ裕隆さんを叩いてしまったことを謝るよりも、腹が立ち過ぎて。エレベーターが停まり、扉が開くと同時にフロアへ飛び出した。