探偵・黒瀬蒼也は、よく周りから「感情を持たない」だとか「人の死に対してまるで心を痛めない冷酷な男」といった評価を下されていた。

 しかし、ほとんど毎日長時間彼と顔を合わせている静奈は知っていた。


 黒瀬は、人の死──特に、自分の力で防げたかもしれなかった死に対して、強い精神的ダメージを受けていた。そしてそんな自分を周りに見せないよう、わざと冷めた態度をしているのだ。


 その日の彼も、現場ではいつも通り人を小馬鹿にしたような態度で振る舞っていたが、事務所兼自宅に帰るなり、リビングのソファーに倒れこんだ。

 解決したのは、とある連続殺人事件。三人が殺されたときに馴染みの警察から協力依頼があり、調査を始めたのだが、その後さらに二人の人間が殺された。

 捕まった犯人の供述によれば、本当はさらに多くの殺害を計画しており、黒瀬が調査に乗り出さなければもっとたくさんの人が犠牲になっていたのは間違いない。それでも彼は、自分が関わって以降に二人もの人が殺されてしまったのが許せなかった。