「……呼んだ?」

「呼んでない! 呼んでない!」



自分でも思う程、分かりやすく慌てる私を健太くんは、やはり不思議そうに見つめている。



「け、健太くん、これから部活なんじゃないの? 遅れちゃうよ」



落ち着きのない、みっともない私をこれ以上見られたくない。

早く向こうに行ってほしい、その一心で、そう言ったとき。

健太くんの大きな手の甲で、私の頬に優しく触れる。



「え、な……」

「顔。赤いけど、大丈夫?」
 


健太くんは平気な顔で、そんなことを言う。

真っ黒なのに、澄んだ瞳にじっと捉えられたら、私も目が離せない。

その瞳を見ていると純粋に、心配をしてくれているだけなのだということが、よく分かる。

だからこそ、小恥ずかしくて堪らない。

そして、周りの視線が刺さりまくっていたことに、ようやく今、気が付く。

恥ずかしさで頭がいっぱいだったが故に、周りが見えていなかった。

動揺した私は、挙動不審な自身の手で健太くんの手を、そっと引き剥がす。



「あ、ありがとう! 大丈夫だから……」



恥ずかしくて、顔が上げられない。

今、健太くんがどんな顔しているのかも見られない。

その表情を確かめる前に、彼が動き始めるのが見えた。

何も言わずに、離れていく健太くんに寂しくなる私は、やはり可笑しいんだろう。

あの背中から、目が離せない。