6限目の授業も無事に乗り越え、あっという間に下校時刻となった。

帰り支度をするみんなの中から、楓の姿を探す。

今日は珍しく、ゆったりとしていた。

つまり、おそらくバイトも何も無い日なのだろう。

私は教科書を詰め込んだスクールバックを持ち上げ、楓の元へ向かう。

その途中で楓と、ばっちり目が合った。

すると突然、彼女の顔は溶ける様にニヤけ始めた。

思わず、小さく悲鳴を漏らし、後退る。



「楓……その顔、怖いよ」

「本当に華世って、分かりやすいねぇ」

「何が」

「意識しちゃってんだ?」

「何を」

「惚けちゃってー」



楓の口角は、上がる一方だ。

何となく、言いたいことは感じ取れていた。

そんな私に見せしめるようにして、楓はニヤけたまま、はっきりと言った。



「健太くん、でしょ?」

「ちょ、やだっ」



この教室に、ただ1人しか居ない名前。

楓の口を、慌てて私の両手で覆う。

覆っても尚、嬉しそうにモゴモゴと何かを言う楓を必死で抑え込む。

『好きな子の気を引きたくて、いじめちゃうって』

――あなたが意識させた張本人でしょうが!

思い出しては、胸がむずむずする。

なんとも言えない気持ちを収集出来なくなって、私の中に散らかしてしまう。

すると、今一番、私に近付いてはならない彼が、こちらに歩いてくるのが見えた。