「嫌になっちゃうよね。髪、広がるし」
楓がサラサラの髪を指で、くるくると弄りながら言う。
そんな彼女の様子を見ながら、ホッとさせてくれる温かさのミルクを再び、口に含んだ。
ミルクのほんのりと、やって来る甘さは、いつもどこか懐かしい。
満たされた気持ちで居ると、つられるかの様に楓もミルクを口へと運ぶ。
満足気に、そして、静かに息を吐き出すと、私を見た。
「そういえばさ、華世は土日、ほとんどバイト入れてるっぽいけど、どうして?」
「どうしてって言われても……」
「何か欲しい物があるとか?」
「ううん」
「何か夢がある! とか?」
「ううん」
「──失礼かもしれないけれど、もしかして、家庭の事情とか……?」
「ううん。そんなのじゃないよ」
首を横に振り続ける私に、やきもきする楓が面白くて、クスクス笑えてしまう。
「何となく」
私があっさりと答えてしまうと、楓は目を大きく開いて、静かに驚いた。
何がそんなに珍しいのか、私は首を傾げる。
すると、楓は口元に軽く手を添えて、言った。
「だって、華世ってさ、いつも大体のことに、理由があるじゃん」
「ん? そうかな」
あまり心当たりが無く、少し考える。
「ほら! あるじゃん! 華世がなかなか彼氏、作らない理由とか」