物凄い剣幕で迫ってくる先輩方から、距離を置こうと一歩ずつ、一段ずつゆっくり後退る。
「先輩方、1回落ち着かれてから、お話を──」
「うるさい!」
先輩が大きな声と同時に、手をこちらに伸ばした。
そして、その手に私の肩は押され、足が階段を踏み外し、バランスが崩れる。
──あ、これは、結構まずいかも。
受け身の取り方も分からず、そのまま体が倒れていく。
その間、妙に時間がゆっくり過ぎているように感じた。
私を押した先輩も、目を見開いている。
良かった。
私を怒っては居ても、多少は「しまった」と思ってくれるらしい。
そんなことを呑気に考えていると、私の後頭部と背中が、弾力のある壁にぶつかった。
壁? そんなもの、ある筈ない。
ここは階段の途中だ。
気付けば、私の両腕に誰かの手が添えられている。
咄嗟に見上げると、私を支えてくれていたのは、健太くんだった。
私の腕を掴む手も、身長も何もかもが、私よりやっぱり一回りも、それよりももっと大きい。
「壁じゃない!」
「え。何言って──」
「栗山さん、大丈夫……?!」
健太くんの台詞を遮って、海藤くんは声を少し張り上げて、間に割り込んでくる。
私が頷くと、海藤くんは先輩の方を見上げた。
「何があったかは、知りませんが。後輩に手をあげるのって、卑怯ですよ」
「その子が勝手に……!」