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「遅くなって、ごめんね!」
階段に座って、スマホを弄っている健太くんの隣へと、駆け上がる。
息を切らす私の姿を見て、健太くんは優しく微笑んで、迎えてくれた。
「そんなに慌てなくて、良いよ」
「でも、健太くん、この後、部活あるから時間が限られてるし……」
「気ぃ遣ってくれて、ありがとう」
「いいえ……」
会話は途切れ、静かになる。
ここは例のあまり使われていない棟の階段だ。
別に何かあるから、2人で集まった訳ではない。
ここ最近の恒例になっているだけだ。
週末も部活漬けの健太くんとの、なかなか作ることの出来ない、2人の他愛も無い時間が。
彼の横顔には、相変わらずドキドキしてしまう。
とは言え、2人の関係性の何かが変わった訳でもないが、全く変わっていない、という訳でもなかった。
そこに彼が「そういえば」と切り出した。
「次の試合にも、引き続き出させてもらえそう」
「凄いね! 次も応援してるからね」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで、本当に元気出る」
「そう? それは良かった」
そんなに喜んでもらえるのなら、いくらだって。
お安い御用だ。
健太くんの笑みを見て、満足した私に彼はこちらを一瞥する。
そして、視線を送られたかと思うと、直ぐ様、目を逸らした。
「もっと元気、分けてほしい」
「もっと……?」
他に彼を元気付ける方法は何だろう、と考えてみるが、これと言って浮かばない。
少し悩んでいると。
「ハグ……したら、駄目?」
――そんな戸惑いながら、言われたら。
「良い、よ」
彼の戸惑いが、私にまで伝染して、上手に返事が出来なくなってしまっていた。