必死止めに入る私を、健太くんは面白がった。



「ふはっ。どっち」



また爽やかに笑う。

笑ってくれたことに対して、嬉しくなって、照れながらも、いつも通りを一生懸命に装った。



「今は、駄目……!」

「はいはい。じゃあ、俺たち、両思いなんだ……」

「そ、そうみたいですね?」

「もうすれ違いたくないから、念入りに確認しときたいんだけど。今日から華世ちゃんと、付き合えるってことで良いんだよね?」



具体的に言われると、より身構えてしまう。

だって、今まで幼馴染みで、友人の様なやり取りばかりだったのに。

何だか、馴れない。

だけど、むず痒くて、嬉しい。

私も肯定の意味として、こくんと頷いた。



「私も……。健太くんの彼女になって、他の人とは違う、もっと健太くんにとっての特別になりたい」

「そんなの――



控えめに、包み込まれた。

突然に腕が伸びてきて、何も反応も出来なかった。

覆うだけのハグ。

だけど、それだけで、あまりの近距離に鼓動がバクバクと煩く鳴っている。



「そんなの。もう随分も前から、華世ちゃんは俺にとって、特別な存在だよ」



そして、控えめなハグをする腕は、私の背中の方へ辿るように回って。

更に、ぎゅっ、と力を込められた。



「……私、こんなに幸せ者で良いのかな」



――だって、私が好きだって思っていた人が、私のこと、ずっと想ってくれて居たなんて。

少し、涙ぐむ。

幸せを噛み締めて、改めて感じる健太くんの体は、当然のことながら、もう子どもの頃のままでは、なくなっていて。

分厚い胸板も、広い背中も、大きな掌だって。

からかって、私の泣き顔に喜んで、直ぐにどこかへ走り去ってしまう健太くんでもなくなっている。

今は、私をこんなにも、こんなにも大事に割れ物を扱う様な力加減で、包み込んでくれる健太くんだ。

心配する必要なんて、これからも一切無いのだと、分からせてくれる。

こんなにも一番近い存在で居てくれたのに、少しも彼の気持ちに気が付かなかった。

私のことだけを特別に想ってくれて、愛しいと思える人に。



「やっぱり……好きだなぁ……」



気付かれないように、一人言の様に呟いた筈だったのに、私を抱き締める力がますます強くなった。

そこに、彼の想いの強さを実感した。

静かに涙が溢れたことは、彼にはこれからも、ずっと秘密にするつもりだ。