「私は知って置いてもらえるだけで、十分なんだってば。それに、ほら! 今、健太くん、人気者だから、健太くんのことを好きな子も、たくさん居るんだろうなぁ。きっと、私の入る余地なんて無いね」
手紙をついに渡してしまったことと、健太くんの機嫌が良いとは言えない、微妙な態度に、少し焦っている自分が居た。
そのせいもあってか、早口になっている。
などと、やけに自分を客観的に見れた。
落ち着かない私を見ている健太くんの浮かない表情は、一切変わらない。
「俺は相手の子、自分で選んだら、駄目なの?」
「そんなことないよ! 健太くんなら、大事にしてもらえそう。羨ましいなぁ」
「するよ」
他人事にしてみたものの、健太くんの返しが、あまりにも強烈で卒倒してしまいそうだった。
そして、彼に優しくされる、私ではない女の子の姿を勝手に想像する。
それだけでも――
――狡いな、その子。
「……幸せ者だね、その子」
すると、健太くんは相変わらず、私をじっと見つめてくる。
「な、何? さっきから顔、怖いよー」
私も相変わらず、茶化してみても、健太くんは動じない。
眉根が少し動いた程度だ。
「ねぇ、どうしたのって……」
「華世ちゃんさ」
「はい……」
「中学のときに、俺が華世ちゃんに『嫌い』って言われたの、覚えてなかったでしょ」
今となっては、私のことを好きで居てくれた人に、酷いことを言ってしまったのだと、よく分かる。
いや、そもそも、そんな状況ではなくても、あまり人に言ってはいけない言葉だ。
『嫌い』なんて、人を傷付けてしまうに決まっている。
「う、あ……。それは、本当にごめんなさい」
「それは、良いんだけど。俺、言われたあの日、その後、どうやって家まで帰ったのか、覚えてないんだ」