健太くんの視線は、私の手紙に釘付けになっている。
何も言わず、ただ見つめていた。
「本当はね、健太くんに宛てた手紙だったの」
私がそっと小さく囁くと、健太くんも「ありがとう」と呟くように返してくれる。
そして、しっかりと、それを受け取ってくれた。
とうとう彼の手に渡った。
渡ってしまった。
昔は昔、今は今。
幼馴染みのままで、と断られたとしても、それはそれだ。
善くも悪くも、ここで白黒つくと云うこと。
そして、いつまでも想い続けるのも可笑しな話だから、ここで私の夢物語の幕が降りると云うこと。
あくまで、一旦、だ。
一旦、物語が締まり、次の恋に進むことが出来た暁には、誰か私を褒めてほしい。
思いっきり、褒めてほしい。
「本当は、健太くんが人気者になる前に、渡したかったんだけど。ほら。今は女の子たちに囲まれてるから」
「それは……」
「あれだけの数の女の子が居たら、引く手数多だね」
「時間が経てば、飽きて、次の誰かに乗っかっていくだろ」
「それは、どうかなぁ? 私は……。だから、私は手紙さえ、受け取ってもらえれば良くて。今の気持ちさえ知って置いてもらえれば、満足なの。それだけで」
彼が女の子に囲まれていることをネタに茶化したりして、場の雰囲気を変えようと試みたが、どうも上手くいかない。
ますます健太くんの顔は、浮かない様子だ。
渡した理由を黙って、聞いてくれていた彼だが、唐突にじゃあさ、と言った。
「――それを知らされた俺の気持ちは、何を言っても、聞いてはもらえない感じ?」