「えっ? あれ? ない!」

吹奏楽部の練習室で片付けを始めた私は、スマホがないことに気づいた。

教室を出るときには、確かに持ってた。

っていうか、今日は、荷物が多すぎて、鞄に入り切らなかったから、リュックを背負い、トートバッグを右肩に掛け、左手に吹奏楽部で使うバンドファイルを抱えて、その上にスマホを乗せてここへ来たはず。

でも、この練習室では、一度もスマホを見てない。

教室からここへ来る途中で落とした?

私は、片付けをしている仲間に、声を掛けると、急いで片付けて教室へと戻った。

途中の昇降口、階段、廊下、それぞれ、下を見て、落ちていないかどうか確認しながら。

けれど、どこにも落ちていない。

教室へと入った私は、自分が歩いたルートを辿ってみる。

けれど、どこにもない。

そうだ!
職員室に落とし物として届いているかもしれない。

私は、職員室へと向かう。

けれど、職員室には届いていないという。

私は、「もう一度教室を探してみます」とことわって、教室へと向かった。

けれど、自分が歩いていないところまで歩き回ってみたけど、どこにもない。

どうしよう!?

スマホを失くしたなんて、親に言ったら、絶対に怒られる。

新しいのを買って……なんて言えない。

私が途方に暮れて立ち尽くしていると、教室後方のドアがガラッと勢いよく開いた。

驚いた私が振り返ると、相手も驚いたように

「わっ!」

と声を上げた。

「なんだ、青木かぁ! 誰もいないと思ったから、びっくりしたじゃん」

そう言うのは、同じクラスの小西 将大(こにし まさひろ)くん。

ちょっとお調子者だけど、クラスのリーダー的存在で、私が密かに思いを寄せる人。

「青木、こんな時間にどうしたんだ? 部活は?」

小西くんは、気さくに話しかけてくる。

「さっき終わったとこ。帰ろうと思ったら、スマホがなくて、探しにきたの」

私は、極力、普通のクラスメイトを装って答える。

こんな些細な会話でドキドキしてるなんてバレたくない。