「今日ほんとはこの前買ったゲームしようかな〜って思ってたんだけど、やっぱりDVD観ない?」
「DVD?なんの?」
「えっとね、春ごろに上映してたやつなんだけど…」
言いながらゴソゴソと鞄の中を探った里茉は、「あ、これ!」と透明なケースに入っているそれを俺に差し出した。
「タイトル聞いたことあるでしょ?」
そのケースに記されているタイトルに目を走らせた俺に、里茉はそう聞きながらこてんと首を傾げる。
確かにそのタイトルは聞き覚えがあった。何回か予告も見た事がある。
今春 上映されていたそれはキャストも豪華で、なかなかのヒットをみせていた映画だった。
ただひとつ気になるのは。
「まあ聞いたことあるけど…」
「けど?なに?」
「これ、恋愛映画じゃねえの?」
そう。
それがガッツリ“恋愛映画”だという事だ。
生まれてこの方、里茉が恋愛映画を見ているところなんて見たことがない。
たしか小学生の時、友達に勧められた少女漫画を読んで『鳥肌が立った』と言っていたはず。
それからというもの映画を観るとなるとアクション系のものばかりだった里茉がまさか恋愛ものをチョイスするなんて、にわかには信じ難い。
けれどそんな俺の心配を他所に、里茉はきょとんと目を丸くした。
「え、うん。そうだけど…。あ、皇明、恋愛ものとか観るのいや?」
「いや、俺は別にいいけど」
「そう?じゃあ観ようよ。なんか友達がすっごく良かったって絶賛してたから!」
ノリノリでDVDをデッキにセッティングしている里茉を横目に「おー」と適当に相槌を打つ。
まあどうせ開始30分も経たないうちに飽きて寝るんだろうな、なんて思っていたものの、里茉は思いの外《ほか》 その映画に集中して見入っているようだった。
里茉は集中力が乏しいから、いつもなら映画の途中で全く関係のない事を喋り出したりするのに、今回はキュッと口を一文字に結って、黙って映画を観続けていた。