私の家の事は洗いざらい彼に喋ったから知られている。
けど、彼の家のことは何も語られず全然知らない。一般的な知識として
 お金持ちの家だって言う事と、後継者は創真さんなんだけど。

 実は高御堂家の血は継いでいないということ。


「付き合ってるのに家の事隠すのは家族と仲が悪いか、
それか本気の関係じゃないかのどっちかよ」

 以前、それとなく友人に相談するとそんな返事が帰ってきて。
どっちであっても嫌だなと思っていた所。まだ確証はなにもないけど、
 何となく前者っぽいなっていう気がしている。

 何時までも一緒に居る訳には行かないのでここで会議は解散。
 私は自分の席へと戻ってきた。

「ついに社長のしっぽを掴んだかもしれない」
「何ですか急に?」
「それがよ。受付も通さず我が物顔で社長室へ行こうとして
秘書に止められた女が居るって」
「へえ」

 一瞬ドキっとしたけど。私はそんな無謀な事はしないし
そんな女性が来たなんてさっき話ししてたっけ?聞いてない。
 
「でもでも、社長は怒る所か穏やかに受け入れてお茶してたって」
「あ……それってもしかして」
「今カノ。或いは元カノと見た」
「……」

 多分、甥っ子さんの事で話をしにきたお母さんじゃないのかなと。
思ったけど下手にここで情報を与えると広まるので言わないでおく。
 詳しくは教えてもらってないけどその人はもう高御堂家の人じゃない。

「その場には居なかったらしいんだけど姉さんショックだろうな」
「でも確定じゃないですから」
「私や貴方に会いに来るんじゃないんだから。社長だよ社長。
ビジネスだったらアポを取るし、知り合い程度でも事前連絡はする。
無いってことはそれなりの深い仲じゃないとおかしいじゃない」
「……それはそう、ですけど」

 元でも身内ならそれくらいする。よね?
あれ。私何で勝手に不安になってる?元義理の姉さんってだけで。
子どもたちの相談をしに来ただけって分かってるのに。それにさっき
 ちゃんと彼に気持ちを伝えてもらったばかりじゃない。

「やっぱりいい男にはいい女がセットなのかなぁ」
「そんな事ないです絶対。容姿よりも気持ちが大事なんです」
「可愛いよね丘崎さんは」

 今後の続報を待て、ということでその話は終わってしまって。
定時まで何時ものようにあくせくしながら過ごした。
 
 一旦家に帰って着替えてから待ち合わせの場所に向かうという
何時もと違う行動をしなきゃいけない。
 こっちはイチから変えるのに男の人はスーツでいいのはずるい。

 足早に会社を出てマンションに向かって。

「ん?……今、何か音がしたような」

 オートロックの所で何か異音がしたような気がして振り返る。
でも誰も居ない。けど視線を戻したタイミングでまた音がして、
慌てて振り返ってもやっぱり誰も居ない。気のせいかもしれないけど
 ちょっと怖いので急いでロックを解除して中へ。

 着替えてまた外へ出ていかないと行けないというのに。


「ああ。良いね、綺麗だよ」

 着替えを終えた所で玄関が開いたと思ったら社長が顔を出す。
 待ち合わせはここじゃないけど、来てくれて嬉しい。

「創真さん」
「怖いって君からのメッセージを読んだだけだと思った?」
「気のせいかも知れないんですけどね。何だか視線?も感じて」
「そうか」
「大丈夫です。行きましょう。お腹も空いてるんです」
「また何か感じたらすぐに言うんだよ」
「はい」

 一緒なら怖くない。彼の車に乗って目的地であるホテルへ。
綺羅びやかな内装は素敵だしお客さんも富裕層が多い印象。
 お泊りはしないでそこの最上階のバーが目当てだそうで。

「いらっしゃいませ」

 食事も出来ると聞いて期待していったら誰も食べてないし、
ただ綺麗な夜景を眺めながら静かにお酒を飲んでいる空間。
 何だか上流階級の人たちの社交場みたいな空気で焦る。

 案内されて座った席は夜景が見える、いわゆる良い席。

「運転があるから私は控えるけど。君はどうする」
「お腹がパンパンに膨れるお酒が良い」
「食事のメニューはこっち」
「だって1人で黙々と食べてるの変です」
「誰も見ないよ」
「創真さんは嫌じゃないです?静かなバーでサンドイッチ食べてる女」
「空腹で機嫌が悪くなって目がつり上がってくる女よりはずっと良い」
「じゃあ紅茶とミックスサンドがいいです」

 いい場所なのに注文を明らかに間違っているけど、
空腹なのはしょうがない。
 先に飲み物が来たので2人ともノンアルコールで乾杯。

「え。元カノ?……そうか、そんな風に見えてるのか」
「やっと社長の情報が出てきたって盛り上がってますよ」
「私の情報がそんなに面白い?」
「目立つのに何の情報もないと気になるんですよね。全然教えてくれないし」
「他人に教える義理もない」
「私もその他人?」

 だから身内の話は教えてくれない?

「君には少しずつ伝えていくから」
「私。その、創真さんに聞きたいことがあって」
「何かな」
「叔父さん」

 私達の間に割って入るようにヌッと出てくる影。
 そして声に驚いて顔を上げると青年が居た。

「もう来たのか」
「もしかして行方不明中の甥っ子さん?」
「慧人です。もう片方は悠人だけど。人見知りだから」
「はじめまして。丘崎咲子といいます」
「君が繋がってる方の姪なのは分かってるから。
このまま引っ込んでてくれると嬉しいんだけど」

 それってどういう意味?って言うまでもないよね、この場合。