ガタッと思わず立ち上がって、声のした方を振り向く。


その声をかけてきたまさかの人物に、わたしは目を丸くした。


「き、清瀬くん……」

思わずその名前がこぼれてしまう。


清瀬久遠(きよせくおん)くん、だ。


1年生の頃から、学校で知らない人はいないというくらいの人気者。

容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。


それだけでも十分すぎるくらいなのに、誰にでも分け隔てなく優しい、らしい。


……ひとつだけ、気になる話を聞いたことがあった気がするけれど。


そして、わたしの記憶が合っていれば、今日から同じクラスのはず……。


「そこ、俺の席なんだけど」

「あ……っ、ご、ごめんなさい……」


その彼が放つ少しの圧に、声がどんどん衰退していく。


慌てて腰掛けてしまっていた席から距離を取って、わたしはそそくさと帰り支度をした。