織の手をひいたけれど、なぜか前には進まなかった。

ぐっと力を入れて足を踏ん張る織は、珍しく焦ったような顔をしている。



「……ひとつだけ、約束」



ぎゅっと、つないでいる手に力が込められた気がした。



「…約束?」



私がそう問いかけると、織は覚悟を決めたかのように、真っ直ぐ私を見据える。



「暗くなる前に、立夏が自分の家に帰ること」



あ……

楽しくて…忘れてた

母ちゃんの笑顔が頭に浮かんで、きゅっと胸が苦しくなった。


それに暗くなる前にってことは、織と一緒にイルミネーション…見れないよ?!



「………」

「…無視はだめって、おれ立夏に教わった」



…仕方ない…仕方ないよね…

そう思うのに、心のどこかで、うまく納得できない自分がいる。



「…そう…、だね」



…一緒にイルミネーション見たかったな

織にこれ以上迷惑かけちゃいけないって分かってるはずなのに、そう思わずにはいられない。

でもきっと、織は私を心配してそう言ってくれている。

それが手から、表情から伝わってくるから、私はもうなにも言えなかった。



「…うん、わかった」



私は織の手をゆっくりと離した。

織の体温が、だんだんと消えていく。

まるで中学卒業後の私達みたいに、だんだんお互いの体温が分からなくなっていく。


私はそれを、怖いと思ってしまった。