「きのう雪遊びしたときに雪だるま作ってたのは…すべて今日のための練習…?!」
「……ちげぇ」
「あははっ…わかっとるよ」
ねぇ織、
そんなにたくさん準備しなくていいんだよ。
「おり!…いこっ?」
私は織の手を握って、ぐっと引き寄せた。
すると、織は腕に抱えていた大量の上着とくつ下を派手に床へ落としてしまう。
「はっ…?!」
それを拾おうとする間もあたえてやるかと、玄関の方へ慌てて駆け出した。
なにがなんだか分からないまま、慌ててクツをはく織の姿は、とても面白かった。
織が家の鍵をしめるのを確認してから、少し雪の積もったコンクリートの上を早足で進む。
「……サイフ…いや、…なにもかも持ってきてねぇ」
「あははっ」
「……笑ってる場合じゃねぇ」
ふん、と顔を逸らす織を見て、また笑ってしまった。
昔からいつも準備万全で、いつも穏やかで、余裕がある。
そんな織も好きだけど、なにも準備してない織を見てみたいと思ってしまった。
もっと、ドキドキ、ワクワクしてほしいの。
楽しいものを見つけたら、素直に駆け寄ってほしい。
なににも興味を示さないけれど、なんかこれいいな、理由なんてないけど、ってそんなふうに思ってくれたらいいな。
「…どこ…、行くんだよ」
少し不安げな織の声がして、足を止めた。
まだ繋がれたままの手は、気づかないふり。
「思い出めぐり、しませんかっ?」
ふと行きたくなった。
そしたら織が、笑ってくれるような気がして。