陽斗side


ため息を吐きながら交流委員会のファイルを片付ける。

副委員長の美波(みなみ)さんは可愛くてモテる、で有名なのに実はすごい自己中。

その証拠に、委員会後のファイルへの記入も、俺に押し付けて先に帰ってしまった。

クラスの奴らにこれを知らせたら美波さんに幻滅してくれるかな、なんてバカなこと

を考えてみる。

「うん、ありえないな」

結局はみんな容姿だよな。

一人で納得しながら忘れ物チェック。

こういうとこまで気を使う俺は、自分でいうのもなんだけど女子たちに人気だ。

まぁ、あんな騒がれちゃあ気がつくのは当たり前なわけで。

体育の授業なんてたまったもんじゃない。

俺の低い声をかき消すくらい生々しい、たっかい声を出すんだから。

一人でぐちぐち心の中で毒づいていると、一年生の方の席に名前のない、ノートが置

いてあった。

手に取って後ろを確認してみるも、名前はなし。

ここの列、女子の列だよな。

仕方ない、と思ってパラパラとノートをめくる。

このノートは、小説が書いてあるらしく、たくさんの文字で埋められていた。

青春もの、スポーツもの、友情もの、最後は恋愛もの。

さらにめくっていくと、小澤陽斗、と書かれた文字。

俺の、名前。

もちろんそれにも俺は驚いたけど、さらに驚いたのは次の行。

この小説の中の小澤陽斗がヒロインをデートに誘っているシーン。

俺は思わずノートを落としてしまって、同時に転びそうになった。

慌ててノートを拾い上げると、この席は誰だったかとファイルを確認する。

一年四組の、女子。

水華莉、舞結。

いつも髪をポニテールにして可笑しそうに笑ってる子。

可愛い、よな。

もしかして、なんて期待が溢れる。

いや、あるわけないんだけど、ないけど。

もしかしたら、なんて。

乙女か、ってツッコみたくなるくらいニヤニヤしてしまう。

…って。もうこんな時間かよ。

急がねえと。

俺は足早に教室を去った。ノートを持ったまま。

*・゜゚・*:.。..。.:*・' *'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

きゃあきゃあと子供たちが騒ぐ幼稚園。

俺の妹−命根(めいね)はぶすっと顔を曇らせていた。

「命根ー、帰るぞー」

「もっと遊びたかったのにぃ…」

そんなこと言ったって、と口に出すと命根は泣き出しそうな顔になった。

「めいねちゃん‼︎また遊ぼうね‼︎」

教室の入り口から、ひょっこりと顔を覗かせた友達らしき園児が、命根に声をかけた。

途端に命根はパッと顔を輝かせて、うん‼︎と返事した。

女子が子供を可愛いって言ってんの、わかるけどわからないっていうか…

子供って単純だよな。