山田が移動してきてから3ヶ月が経った頃、今日子はひとり残業をしていた。そこに山田が営業から帰ってきた。9時を過ぎていた。
「鳴海課長、残業ですか? 」
「山田君こそどうしたの? 」
「明日直行で商談なのですが、資料が足りないので取りに戻って来ました。鳴海課長はまだかかるんですか? 」
「もう終わらせるわ。山田君は? 」
「資料はできているのでもう帰れます。もしよろしければこれから居酒屋にでも行きませんか? 僕お腹空いていて、よかったら付き合ってください。」
今日子はうれしかった。ここ数年、特に若い子に誘われたことなんかなかった。
「こんなオバさんでいいの? 」
「鳴海課長をオバさんなんて思ったことないですよ。僕は仕事のできる女性好きです。行きましょう! 」
今日子はうれしかった。たとえそれが本心でなくても・・・

山田は今日子と居酒屋に行った。
山田は話題を次から次へと提供してくれて、楽しい時間を過ごせた。
「今日は楽しかったわ。山田君有難う。」
「いえ、御馳走になってしまい申し訳ないです。今度は僕がおごりますので、また行きましょう。」
「そんなこと言っちゃって。本気にするわよ。」
「はい、僕は本気ですよ。いつでも。」
2人でタクシーに乗った。2人の家は意外と近かく、山田が先に降りる道のりだ。
山田の家の前まで来た。
「今日はありがとう。また明日。」
山田は、降りようとしていた身体をひねり、今日子の頬にキスをした。
「また明日・・・」

今日子は驚いて言葉が出なかった。
何が起きたのだろう????????
家に着いた後もぼーっとしていた。ドキドキしていた。キスされた? どうしちゃったの? 事故よね。事故・・・だって山田君は26歳、私は43歳、17歳の年の差なのよ。ないでしょ。外国人の挨拶と同じよね。そうよ。挨拶よ。挨拶・・・
今日子は布団をかぶった。ドキドキがおさまらずなかなか眠れなかった。