そうだ、あのときは、冬夜に言われたから勇気が出たんだ。


――『自分をかわいそうにしているのは、本当は周りじゃなくて自分自身なんだから』

上から目線で私にそう説教した、出会ったばかりの鼻持ちならない彼は、本当は自分自身にその言葉を投げかけたかったんだと後に白状した。

死にたがりで、ちょっとひねくれてて、寂しがりや。

それが冬夜だ。私と似た者同士の、いい人キャラかぶりの冬夜。

自分になんてまったく自信がないし、いい人キャラを崩すのは怖いけど、それでも夜になればまた似た者同士の彼に会えるなら……大丈夫な気がする。

「私、気になる人がいるの。ごめんね、だからやっぱり断ってもいいかな」

気づけば、口からそんな出まかせを言っていた。

ええっ!と芽衣が目を丸くする。

「気になる人? そんな話、一度も聞いたことないんだけど! え、誰? 塾の人とか?」

「――電車でよく見かける人」

冬夜のことを思い出しながら口走ってしまったけど、これはあくまでも、誘いを断る言い訳に過ぎない。

間違っても、恋なんかじゃない。

とはいえ、気になる人という言い方は、嘘ではないと思う。

実際私は、自分と似た者同士の彼のことを気にしているのだから。

あくまでも、人間としてだけど。

「そんな人いたんだ! 早く言ってくれたらよかったのに! で、どんな人なの?」

「うーん、なんていうか、暗い人? マイナス思考で……」

「何それっ!? 全然よく思えないんだけど」

冬夜の決して魅力的ではないスペックを聞いて、芽衣が笑う。

それを見て、冬夜に悪いことをしたなと思った。

どうせなら、夜じゃなくて昼のスペックを口にした方がよかっただろうか?

周りの女子高生が見惚れるくらいきれいで、爽やかで、優等生で――。