「大丈夫だよ。夜道なんて、もう慣れてるし」

「じゃあ、高架の階段が終わるところまでいいから」

断られた恥ずかしさが胸に押し寄せ、取り繕うようにそんなことを言ってみた。

すると彼女は「それ、意味あるの?」とまた少し笑う。

だけど今度は断る様子がなかったから、俺は半ば強引に彼女の後ろについて行った。

戸惑うようにチラリと後ろを一瞥したものの、彼女は何も言わずに、そのまま歩き続ける。

タンタン……とふたり並んで高架を降りる音が、車のエンジン音に混ざって、夜の街に鳴り響いた。

「……じゃあ、またね」

高架の階段の一番下にたどり着くと、彼女は俺を振り返り、少しぎこちなくそんな別れの挨拶をした。

「うん、また」

何となく恥ずかしくなって、うつむきながら、俺もそう答える。

言い終わるか終わらないかのうちに、タタタ……と彼女が夜道を遠ざかっていく音がした。

次に顔を上げたとき、グレーのスカートの後ろ姿はもうどこにも見えなくなっていた。

高架の階段の一番下の段に、ひとりで佇んでいる俺。

まるで闇に彼女が吸い込まれてしまったみたいで、寂しさが胸に押し寄せる。