――『お前、かっこいいな』

――『勉強できてうらやましい』

――『お前を嫌いな人間なんかいるの?』

――『悩みがなさそうでいいな』

ああ、今日もしんどい。

笑顔の裏で、俺が今日も始まったばかりの一日に呼吸困難になっていることなど、一輝は知る由もないのだろう。

「ていうかこの間期末終わったばかりなのに、あと一ヶ月したら中間かよ。テストテストで嫌になるな」

うんざりした表情で、ため息を吐く一輝。

その顔が面白かったのか、周りにいた女子高生たちが、こちらをチラチラ見ながら何かを耳打ちし合っていた。

K高にY女子にS学院の制服。

この路線沿いには学校が多いから、学生服が溢れ返っている。

一輝のことは嫌いじゃない。

まっすぐな明るさと正直さは俺にはないもので、憧れてさえいる。

「俺も、ときどきそう思うよ」

「ときどきって! 俺なんて毎日思ってるよ。勉強漬けにして、大人は俺たちをどうしたいんだろうな? もしも明日死んだらどうすんだよ。俺、楽しくもない勉強ばっかりで一生終えちゃうじゃん。まあ、言うほど勉強なんてしてねーけど」

悲痛な顔で捲くし立てる一輝に、「ほんとそうだよな」と相槌を打つ。

同時に、『明日死んだらどうするんだよ』の言葉が喉の奥に引っかかってちくんとした。

俺は一輝ほど、死に対する恐怖がない。

明日死んだらそれまでだ――そんな風に思ってる。

実際、何もかもが嫌になって、夜の高架から道路に飛び込みそうになったことすらあるほどだ。

だけどあのとき思いがけない出来事があって、俺はそれ以来、息をするのがちょっとだけ楽になった。