それ以降もお兄ちゃんは、“夜に出歩いたらお化けに出くわして危険な目に遭いそうになった子ども”を私の前で定期的に演じた。

今にして思えば圧巻の演技力で、私はお兄ちゃんの思惑通り夜に怯え続けた。

そんな風に、お兄ちゃんは昔から私に意地悪だった。

おかげで夜の外食のときは、私はひとりでお留守番。

家族で花火大会に行く日も、ひとり家に残って、花火の音を聞きながら本を読んでいた。

おばあちゃんの家からの帰りが遅くなったとき、泣き喚いて泊めてもらったこともある。

大きくなるにつれ、だんだんとからかわれていたこと気づいたけど、夜が怖いという意識は体に染みついてなかなか離れなかった。

見えない夜の闇が、いつまでも怖くて。

ようやく夜に外に出られるようになったのは、中学生になってからだ。

――だけど高一の今は、怯えるどころか、夜の世界に親しみすら感じている。

見えない夜の世界では、自分を偽らなくてもいいから。