すると処置室の扉が開いて、顎をガーゼで覆った一輝が出てくる。

「あれ? 母さん?」

「一輝、心配したのよ。大丈夫?」

「うん、大丈夫。でもけっこうがっつり切れてたみたいで、七針縫ったって言われた」

「まあ、痛くなかった?」

「麻酔したから痛くなかったよ。でもこれ、麻酔が切れたら痛くなるのかな、怖いな。痛み止めってもらえるのかな」

「さあ、わからないけど。とにかく、命に関わらなくてよかったわ……」

俺たちの背後では、ホッとしたような親子の会話が繰り広げられている。

だけど俺は、いまだ目の前の彼女の姿に目を奪われ、一輝の方を向けないでいた。

見知らぬ高校生があまりにもじっと見てくるものだから、小さな雨月は怯えたように肩を竦めている。