それからおよそ三十分後。

黒髪ショートヘアの中年の女の人が、焦った顔で、パタパタとスリッパの音を響かせながら現れた。

どことなく似ていたから、一輝の母さんだとすぐにわかる。

俺はベンチから立ち上がり、一輝の母さんに向かって頭を下げた。

「同じクラスの市ヶ谷です。すみません。一輝くんは、僕をかばって怪我をしたんです」

一輝の母さんはハッとしたように俺を見ると、気遣うように腕に触れてきた。

「お願いだから、頭なんて下げないで」

「でも……」

「大事には至らないって、病院から連絡受けてるの。たとえ大怪我だったとしても、あなたのせいだなんて思わないわ。いつも一輝と仲良くしてくれてありがとう」

そんな風に優しくされると余計にいたたまれなくなって、俺は肩を落とす。

同時に一輝にはこんな優しそうな母さんがいるんだって、こんなときだというのに、うらやましく思った。

そして、雨月のいない今、俺はまたひとりになってしまったんだと思い知らされる。

彼女は、どこに消えてしまったんだろう?

本当に、夜の妖精だったのか?