高架から見下ろす分には近くに感じるけど、歩けばまずまずある距離だ。

それでもただひたすら、片道二車線の車道に面した歩道を歩き続ける。

行き交う車のヘッドライトの光、通り過ぎるサラリーマンたちの笑い声、甲高く鳴り響くクラクションの音。

せわしない夜の景色と音の中を泳ぐようにして、俺は一心に、ばあちゃんが住むそのマンションを目指した。

今までだって、いつでも行く機会があった。

だけど行かなかったのは、最後の希望を残しておきたかったからなんだと思う。

だけど深い孤独を感じた今は、急に居ても立っても居られなくなったんだ。

“コーポ月見草”

たどり着いたそのマンションの入り口には、剥げかけのペイントで、そう書かれていた。

古い造りの赤銅色のエレベーターに乗り込む。

チンと鳴る音とともにたどり着いた五階には、四つほど玄関のドアがあった。

どれがばあちゃんちのドアかわからず、なすすべもなく立ち尽くす。