そう自分に言い聞かせても、納得し切れていない自分がいた。

Y女子には、雨月という名前の子は存在しなかった。

たったそれだけのことでこんなにも不安になるのは、俺の心が弱いからなのか。

今まで以上に、孤独な夜だった。

気を抜くと闇に吸い込まれて、もう二度と、この場所には戻って来れなくなるんじゃないかと、本気で思うほどに。

欄干を両手で掴み、弱い心を戒めるようにして、呼吸を繰り返す。

雨月という名前の、死にたがりの女の子。

俺によく似た、卑屈な性格だった。

だけど笑った顔は無邪気でかわいくて、俺はたまに現れるその笑顔を見るのが、いつしか楽しみになっていた。

延々と続く夜の中、光を求めるように、死にたがりの彼女の笑顔を探したんだ。

だけどその雨月は、もういない。

十月に入ったばかりの、冷たさを孕んだこの秋の風にさらわれるようにして、俺の前から消えてしまった。

だったら俺は、これから、何を支えにして夜を乗り越えていけばいいのだろう?

孤独がさざ波のように押し寄せ、弱くてみじめな俺の心を責め立てた。

だけどそのとき、老朽化した白い十階建てのマンションが、視界に映る。

かつて死んだ母さんが住んでいて、今もばあちゃんが住んでいる家。

束の間呆然とそのマンションを見つめた俺は、気づけば引き寄せられるようにして、そこに向かって歩き出していた。