見られるのは好きじゃない。

落ち着かない気持ちでうつむくと、「あの」と視線の先にこげ茶色のローファーが見えた。

おそるおそる顔を上げると、見たことのない女子がふたり立ち、目の前で俺を見ている。

「誰か待ってるんですか? 呼んできましょうか?」

にっこりと微笑んでいる彼女たちは、本心はわからないけど、俺に親切心を見せようとしてくれているのはたしかだった。

「あ、はい。その……」

そこまで言いかけて、俺は雨月の苗字を知らなかったことに気づく。

仕方なく、持っている情報だけを頼りにすることにした。

「雨月っていう名前の生徒、知りませんか? 雨の月って書いて、雨月って読むんですけど」

「うづき? 知ってる?」

首を傾げながら、もうひとりの女子に尋ねる彼女。

「ちょっとわからないです。美月なら知ってますけど。苗字は?」

「それは、わからないんです」

怪しい発言しかしていない自分を誤魔化すように、余所行きの笑みを浮かべた。

まさか死にたがりという共通点で結ばれている関係だなんて、彼女たちは思いもしないだろう。

すると彼女たちはもう一度目配せをし合い、「何年生ですか?」と問いかけてくる。

「一年生です」

「ちょっと待っててくださいね。一年の子に聞いてくるから」

そう俺に声をかけ、パタパタと校門の方に戻っていった親切な彼女たち。

だけど結果は、雨月なんていう名前の生徒は、この学校にはどの学年にもいないという信じられないものだった。