「市ヶ谷~。隣のクラスの小林が、お前のことさっき入口から見てたぞ」

午前中の中間休み。

自分の席で呆然と頬杖をつき、雨月のことを考えていた俺は、一輝の声で現実に引き戻される。

いつの間にか、俺の目の前でニヤニヤ顔を浮かべていた一輝と目が合った。

「気のせいじゃないか」

「気のせいじゃないって! めちゃくちゃじっと見てたし。モテるやつはいいよな~」

「それだけでモテるとか言うなよ」

死にたがりで卑屈な俺の本性を知ったら、どんな女子もたちどころに逃げていくだろうな。

そんなことを思いながら、茶化す一輝を笑顔であしらう。

そして、昨夜久しぶりに会った彼女のことを想った。

――『私、冬夜に出会えてよかった』

彼女といるとき、俺は死にたがりで嫉妬深くて弱虫の、ただの自分だった。

自分で自分が大嫌いで、いつ消えてしまってもいいと本気で思っていた。

だけど雨月は、そんなダメな俺に会えてよかったって笑っていた。

それなのに、そのあと一輝がやってきて、目を離した一瞬に、彼女はいなくなってしまった。

まるで、闇に溶けてしまったかのように――。

あまりにも突然のことで、すぐには状況を飲み込めなかった。

それほど急いで帰りたかったんだろうか?

やっぱり嫌われてたんだろうか?

ネガティブ思考の俺には、そんなよくない考えしか思い浮かばない。