死にたがりというのは嘘だったにしても、少なくとも指し示してくれたマンションがお母さんの実家だというのは、本当なんだと思う。

あのときの冬夜は、嘘を言っているようには見えなかったから。

そう、願いたい。

たしか十階建てくらいの、古そうなマンションだった。

闇の中で見ても、ところどころ老朽化しているのがわかったほどの。

だけど夕暮れの景色の中、あの夜冬夜が指し示してくれたそのマンションを見つけようとしても、どうしても見つからない。

水色の空に浮かぶ真っ白な丸い月が、やたらと目立っているだけだ。

夜と昼とでは、見え方がこんなにも違うらしい。

――まるで、冬夜と私の関係のよう。

とにかくもう、冬夜のことを考えるのはやめよう。

考えても、つらくなるだけなんだから。

そして私はその場を離れると、高架の階段を駆け下り、冬夜との思い出を振り切るようにまっすぐ前を向いたまま、通い慣れた塾へと急いだのだった。