その夜を機に、私は塾帰り、あの高架を通らなくなった。大回りして、横断歩道を渡って帰っている。
また冬夜に会うのが怖いからだ。
彼に会わないように、朝もわざと電車の時間を遅らせた。
どうしてここまで心が傷ついているのか、自分でもわからない。
だけどこのままでは、今度こそ本当に自分が消えてしまう気がして、私はどうしても彼の姿を目にすることができなかった。
水曜日、金曜日と、冬夜に会わない塾帰りの日々が続く。
だけど、週明けの月曜日。いつものように学校帰りに図書館に行って、駅から塾に向かう途中で、いつもより時間が早いことに気づいた。
塾の始まる六時半まで、まだ少し余裕がある。
気づけば私は、懐かしい香りのする秋風に誘われるように、高架に来ていた。
階段を上り、高架の真ん中に立つ。
うっすらと朱色がかった空の下に、今日も住み慣れた町の景色が広がっていた。
夕暮れの景色は、夜の景色とは、どこか違って見える。
闇の中を流星のように行き交う車のヘッドライトの光がないし、色とりどりのネオンもない。
まるで闇がぬぐい取られたように、すべてが澄んでいて、だけど何かが足りない気がした。
冬夜は毎夜この場所で、物憂げに夜の景色を眺めていたっけ。
出会ったときから、ずっと。
欄干に手をかけ、見慣れない夕方の風景を見渡す。
――『あのマンション、俺の母さんの実家なんだ。今はばあちゃんがひとりで住んでる』
いつかの夜の冬夜の声が、耳の奥から聞こえた。
また冬夜に会うのが怖いからだ。
彼に会わないように、朝もわざと電車の時間を遅らせた。
どうしてここまで心が傷ついているのか、自分でもわからない。
だけどこのままでは、今度こそ本当に自分が消えてしまう気がして、私はどうしても彼の姿を目にすることができなかった。
水曜日、金曜日と、冬夜に会わない塾帰りの日々が続く。
だけど、週明けの月曜日。いつものように学校帰りに図書館に行って、駅から塾に向かう途中で、いつもより時間が早いことに気づいた。
塾の始まる六時半まで、まだ少し余裕がある。
気づけば私は、懐かしい香りのする秋風に誘われるように、高架に来ていた。
階段を上り、高架の真ん中に立つ。
うっすらと朱色がかった空の下に、今日も住み慣れた町の景色が広がっていた。
夕暮れの景色は、夜の景色とは、どこか違って見える。
闇の中を流星のように行き交う車のヘッドライトの光がないし、色とりどりのネオンもない。
まるで闇がぬぐい取られたように、すべてが澄んでいて、だけど何かが足りない気がした。
冬夜は毎夜この場所で、物憂げに夜の景色を眺めていたっけ。
出会ったときから、ずっと。
欄干に手をかけ、見慣れない夕方の風景を見渡す。
――『あのマンション、俺の母さんの実家なんだ。今はばあちゃんがひとりで住んでる』
いつかの夜の冬夜の声が、耳の奥から聞こえた。