アンドロイド・ニューワールド

…そこで。

私は翌日から、湯野さんと悪癖お友達以外のクラスメイトと、友達になる為。

とりあえず、片っ端から「私と友達になりませんか」と、声をかけて回ることにしました。

朝の時間だけで、主に女子生徒を中心に、12人に声をかけてみましたが。

皆さん、失笑して却下するか、嫌がって逃げるか、無言で無視するかのどれかでした。

世知辛い世の中です。




このままでは、私に友達など出来そうもありません。

昨日あんなことがありましたが、それでも何とか仲を取り持てないものかと。

湯野さんと悪癖お友達一行にも、声をかけてみようかと思ったのですが。

手当り次第クラスメイトに声をかける私を、彼女達は例の悪癖で、ほくそ笑むように眺め。

案の定、私が彼女達に話しかけようと傍に寄ったら、蜘蛛の子を散らすように逃げていく始末。

これでは、仲を取り持つどころではありません。

そもそも、話し合いの機会すら与えてくれないのですから。

やはり、世知辛い世の中です。

そんな世の中でも、私はまだ、友達作りを諦めてはいません。

既にクラスメイトの約三分の一、特に女子生徒には、かなり避けられているわたしですが。

一度断られても、二度三度と頼めば、気が変わるかもしれません。

人間の気の移ろいやすさは、お天道様と同じですから。

そんな訳で私は、13人目となる男子生徒に、声をかけてみることにしました。

時間的に、そろそろ一時間目が始まってしまうので。

この時間で友達勧誘を出来るのは、彼で最後でしょう。

良い返事がもらえると良いのですが。

「は?誰がお前なんかと友達になるかよ」

と、男子生徒は言いました。

この台詞を聞いたのは、今日で八度目です。

現実は残酷です。

たまには、新しい台詞を聞いてみたいものです。

すると、私の願いが叶ったようで。

「つーかさぁ、お前みたいな奴、もう無理なんだって」

と、彼は言いました。

目新しい台詞です。

しかし、意味は不明です。

「何が無理なのでしょうか?」

「お前のそのキャラ、誰もついていけねぇよ。馬鹿なんじゃね?友達作りしたいなら、そのキモいキャラやめてから来いよ」

と、男子生徒は言いました。

もっと意味不明です。

しかし、何処か核心を突いた台詞でもあります。

私に友達が出来ない理由は、そこにあるのかもしれません。

では、詳しく聞いてみましょう。

「その、キモいキャラというのはどういう…」

「それをやめろっつってんだろ。アホか。もう黙ってろよ」

と、怒ったように男子生徒は言いました。

黙れと言われては、声を出すことは出来ません。

何とかジェスチャーで…と思いましたが、もう授業が始まってしまいます。

そもそも、彼は既にそっぽを向き、私との話し合いに応じるつもりはないようです。

途方に暮れている私を見て、周囲のクラスメイトはクスクスと笑っていました。

何か面白いものでも見えたのでしょうか。

ですがその笑みは、湯野さんの悪癖お友達の、例の悪癖笑顔に、とてもよく似ています。

つまり、人を小馬鹿にしたような笑顔です。

この場合、小馬鹿にされているのは私なのでしょうか?

だとしたら、私の友達作りは、とても困難なものになりそうです。
さて、その日の昼休みが終わり。

それまでに、クラスメイトの32人ほどに友達勧誘を試みましたが。

残念ながら、全て失敗に終わりました。

つくづく、世知辛い世の中です。

案外皆さん、心に余裕がないのかもしれません。

私には心がないので、彼らの気持ちは分かりませんが。

とにかく、私に対して友人になる気がないことだけは、よく分かりました。

しかし、諦めてはいません。

クラスメイトは私を含めて38人。私を除けば37人。

これまでに声をかけたのは32人。湯野さんと悪癖お友達を含めると36人。

つまり、あと一人残っているのです。

その一人が、もしかしたら私と友達になってくれるかもしれません。

とはいえ、ここまでの流れを見ると、もう一人にも断られそうな気もしますが。

そのときは、二度目を試みるとしましょう。

さて、それはともかく。

私立星屑学園では、昼休みの後に、掃除の時間があります。

研究所では、清掃員を雇って研究所内を清掃してもらっていましたが。

ここでは、生徒達が校内の清掃をするそうです。

自分の身の回りは、自分で綺麗にしろということなのでしょうか。

まぁ、特に掃除に関しては話すことはありません。

それよりも、私が語るべきは。

その掃除の後、五時間目の授業に向かうときに起きた出来事についてです。
掃除の後、五時間目の授業が始まるまでのインターバルは、およそ10分ほどです。

そしてこの日の五時間目の授業は、化学。

化学、そして生物の授業は、普段の教室ではなく、校内の二階にある理科室で行われます。

しかも、この学園の理科室は、校舎西棟の端っこに位置しています。

だから、東棟に教室があるクラスは、移動するのにとても時間がかかります。

が、私達のクラスは元々西棟にあるので、階段を上るだけで、さほど時間をかけずに移動出来ます。

学年が上がったら、教室が東棟になって、理科室から遠ざかることになってしまうのでしょうか。

あまり考えたくないですね。

ともあれ、私は掃除が終わってから、五時間目が始まるまでの約10分の間に。

教科書とノート、筆記具を持って、教室を出…、

…ようとしたときに、それは起こりました。

「あっ…」

教室の扉付近で、衝突事故が発生していました。

車椅子に乗った男子生徒が、扉を開けて出ようとしたところに。

湯野さんと悪癖お友達の一人が、男子生徒の横をすり抜けるように、無理矢理割り込んできた為に。

湯野さんと悪癖お友達の一人は、男子生徒の乗っていた車椅子に、ドン、とぶつかってしまったのです。

ぶつかったと言うか、軽く当たった程度ですが。

しかし、車椅子の男子生徒は、後ろからいきなり、割り込むように通り抜けてきた悪癖お友達の存在に、全く気づいていなかったらしく。

軽く当たった程度ですが、膝の上に乗せていたテキストやノート、筆記用具一式を、廊下にぶち撒けてしまいました。

また、筆記用具を入れていたペンケースのチャックが、ちゃんと閉まっていなかったのか。

ペンケースの中のシャープペンシルや消しゴムなども、廊下に散らばっていました。

交通事故ですね。

慌てて、足元に落ちたテキストや筆記用具を拾おうとする、車椅子の男子生徒ですが。

湯野さんの悪癖お友達は、自分がぶつかった相手に謝罪することも、落としたものを拾うこともなく。

何事もなかったかのように、振り向きもせず、すたこらさっさと歩いていきました。

更に、その様子を見ていた、近くにいた別の生徒達も。

声をかけることも、落としたものを拾ってあげることもなく。

何事もなかったように、まるで彼の存在など見えていないかのように、彼の横を通り過ぎていきました。

残されたのは、懸命に廊下に散らばったものを、屈み込むようにして拾い集める車椅子の男子生徒のみ。

…。
 
…冷たい世の中ですね。

私は彼の傍に寄り、しゃがみ込んで、落ちていたシャープペンシルと消しゴムを拾い上げました。

「あ…」

車椅子の男子生徒は、驚いたように私を見ました。

「どうぞ」

と、私は彼に落とし物を渡しました。

「あ…ありがとう」

と、車椅子の男子生徒は答えました。

…ん?そういえば、この車椅子の男子生徒。

いつぞや、私に購買部の所在地を教えてくれた方ですね。

「いえ、大したことでは」

と、私は答えました。

それよりも。

「クラスメイトの方々は、心に余裕のない方が多いのですね。目の前に落ちた落とし物を、拾ってあげるくらいの親切心もないとは」

と、私は言いました。

私に心はありませんから、そんな私が親切心という言葉を使うのは、間違っているかもしれませんが。

何と言いますか、あの人達は。

困っている人が目の前にいて、多少自分の労働力と時間を提供すれば、その人を助けられる、という状況においても。

とにかく、自分のやるべきことだけを優先されるのですね。

非常に合理的、ですが。

以前読んだ本の中に、人間、空に向かって唾を吐けば、自分の顔に落ちてくるという記述がありました。

つまり、自分のしたことは、いつか必ず自分に返ってくるという意味ですね。

裏を返せば、自分のしなかったことは、いずれ自分もしてもらえないということです。

あの人達はきっと、自分が財布から小銭をぶち撒けたとしても、誰にも拾ってもらえないでしょうね。

それどころか、小銭をくすねられる可能性もあります。

でも、世間ではそれをこう言います。

因果応報、と。
それはともかくとして。

そんなことをしていたら、既に授業開始五分前。

既に教室の中には、一人もクラスメイトは残っていません。

私も、こちらの車椅子の男子生徒も、早く理科室に向かわなければ、遅刻してしまいます。

「急ぎ、理科室に向かいましょう」

と、私は言いました。

が、

「う、うん…。そうだね、それじゃ…」

と、車椅子の男子生徒はそう言って。

何故か、理科室に向かう階段とは、反対の方向に車椅子を向けました。

何をしているのでしょう。

「どうしてそちらに向かうのですか?理科室は西棟、この上ですよ」

と、私は教えました。

私よりも、中学生のときからこの校舎で過ごしている彼の方が、校舎内の地理には詳しいはずですが。

もしかして、とても方向音痴なのでしょうか。

すると。

「うん、そうだけど…。俺は、エレベーターに乗らなきゃいけないから…」

と、車椅子の男子生徒は答えました。

「成程、確かにあなたは車椅子ですから、階段は上れませんね」

と、私は言いました。

この学園の階段には、車椅子用の昇降機はついていません。

しかし代わりに、校内にエレベーターが設置されています。

納得しました。

でも、納得出来ないことがあります。

「エレベーターなら、西棟と東棟、両方にあったと記憶しています。西棟のエレベーターを使えば良いのでは?」

と、私は聞きました。

彼の向かっている方角は、東棟です。

東棟のエレベーターに乗ろうとしているものと推測します。

が、エレベーターなら、西棟にもあります。

理科室は西棟にあるのですから、わざわざ東棟のエレベーターを使って、遠回りする必要があるとは思えません。

すると。

「あ…。えぇと、西棟のエレベーターは、俺が入学する前に、とっくに故障してて…。そのまま、直されてないんだ」

「…」

「それまで、車椅子の生徒はいなかったらしくて…。直す必要がないって…それで…」

「…つまりあなたは、向かう先が西棟だろうが東棟だろうが、階の上り下りをするには、例外なく東棟のエレベーターを使用するしかない、という状況なのですね?」

「うん…そう」

と、車椅子の男子生徒は頷きました。

成程、理解しました。

「しかし、授業開始まであと五分足らずです。今から東棟のエレベーターに向かっていては、授業に間に合いませんよ」

「うん…。分かってるけど、でも他に方法がないから…。…その、君だけでも…先に行って。急げば、君だけなら遅刻せずに済むよ」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

自己犠牲の精神ですね。

俺のことは諦めろ、お前は俺の屍を越えてゆけ、という奴です。

しかし私は、彼の屍を越えていく趣味はありません。

何故なら、私にはこの状況を打開する為の策があるからです。
「成程、理解しました」

「うん…。だから、先に行って。俺は遅刻しても…」

「いいえ、あなたが遅刻することはありません」

「え?」

と、車椅子の男子生徒は首を傾げました。

「何故なら、私は今からでも間に合う方法を考えついたからです」

「ほ、方法って…?」

「簡単な話です。私が、あなたと車椅子を背負って、階段を駆け上がれば良いのです」

「え、えぇぇ!?」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

「では行きましょう。私の背中に掴まってください」

と、私は言いました。

そして、しゃがみ込んで彼を背負う準備をしました。

「え、い、いやいやいや。ちょっと待って」

「待ちません。時間が迫っています。さぁ早く」

「いや、重い、重いから。とてもじゃないけど背負えないよ」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

成程、私の背中の積載量を気にしてくださっているのですね。

しかし、その心配は必要ありません。

「大丈夫です。私の身体は、戦闘モード移行時にはおよそ2トン、通常時でも300キログラムの負荷に耐えられるよう、設計されています」

「え、えぇぇ?」

「そして、高校一年生の男子生徒の平均体重は60キロ前後。加えてあなたは、高校一年生の平均身長よりやや低めで小柄な為、およそ55キロ前後と仮定して、そこから更に、あなたには足がないので、その分の重さもマイナスされます」

「…」

と、私は言いました。

更に付け加えるならば、彼は平均より筋肉力が少なく、痩せ型なので。

恐らく彼の体重は、50キロ台前半といったところでしょう。

「そこに車椅子の重さを付け加えても、やはり60キログラム前後。全く問題ありません。何ならあなたが5人いても、私一人で運搬可能でしょう」

「…運搬…」

「はい。ですから、気にせずお乗りください」

と、私は言いました。

これで、万事解決ですね。

…と、思ったのですが。

「…ううん。良いよ、君は一人で、先に行って」

と、車椅子の男子生徒は言いました。
これは想定外です。

まさか断られるとは。

授業に遅刻したいのでしょうか?

「何故断るのですか?」

と、私は尋ねました。

あ、もしかして。

「乗り心地を気にしているのですか?確かに、リムジンやファーストクラスの座席に比べれば、私の背中の乗り心地は劣るでしょう。しかし今は、授業に間に合うか間に合わないかの非常時であり、かつ階段を上るという短時間の我慢で済むので、ここは辛抱してもらいたいと、」

「い、いや、そういうことじゃなくて」

「…何でしょうか?」

と、私は聞きました。

乗り心地の問題でないなら、何の…、

「あ、勿論輸送費は無料です。無賃乗車で結構ですよ」

「いや…。あの、そんな人を、荷物みたいに…。いや、今の俺は、実際荷物みたいなものなんだけど…」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

荷物とは何のことでしょう。

「何を気にしているのですか?」

と、私は聞きました。

「女の子に…そんなことさせる訳にはいかないから」

「え?男女差別ですか?」

「そ、そういうつもりはないけど…。でも、女の子に運んでもらう訳にはいかない…って言うか、そもそも誰かに背負わせる訳にはいかないよ」

と、彼は言いました。

謎の理論です。

この世には、大抵万国共通で、「おんぶする」という慣習があるのに。

何故、それを拒むのでしょう?

「俺は東棟のエレベーターで、自分で行くから…。君は、階段を使って。早くしないと、間に合わなくなるよ」

「…」

と、私は無言で考えました。

そして、結論を出しました。

「…分かりました。では、私も東棟のエレベーターでご一緒しましょう」

「え?」

と、車椅子の男子生徒は首を傾げました。

が、私は気にせず、彼の車椅子のハンドルを握りました。

そして、東棟に向かって歩き始めました。

「ちょ、ちょっと待って。何やってるの?」

と、車椅子の男子生徒は尋ねました。

「見ての通り、車椅子を押しています」

「そ、そうじゃなくて…!何で一緒に来るの?」

「説明を求めますか?長くなりますけど良いでしょうか」

「え?い…良いよ」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

では、お言葉に甘えて。

「理由は四つあります」

と、私は言いました。
「一つ目は、世の中には『死なば諸共』という言い回しがあります。どうせ一人遅刻するなら、二人遅刻したところで、大した問題ではありません」

と、私は言いました。

どうせ、このままではこの車椅子の男子生徒は、授業に遅刻してしまうのですから。

そこに私がもう一人加わっても、大した問題ではありません。

更に。

「二つ目は、あなたには恩があるので、その恩返しです」

「恩返し…?」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

「はい。転入初日、私に購買部の所在地を教えてくれたことを覚えていますか?」

「あ…。それは…」

「忘れていましたか?」
 
「いや…。忘れてはないけど、でも…そんな、返してもらうような恩じゃないよ…」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

謙遜しているのでしょうか。

それでも私は、恩返しをするに値する行為だと判断しているので。

大人しく、恩を返されてください。

「三つ目は、あなたが最後の一人だからです」

と、私は言いました。

「最後の一人…?どういう意味?」

と、車椅子の男子生徒は聞きました。

「私の友達作りの一環です。クラスメイト全員に声をかけて回っているのですが、なかなか色の良い返事がもらえずに、困っているところです。そしてあなたが、まだ声をかけていない最後の一人です」

「…」

「つまり、どうせあなたには声をかけるつもりだったので、ついでということですね。…どうせ遅刻は確定していますし」

と、私は言いました。

私達が東棟に向かっている間に、授業開始を告げるチャイムの音が、校舎内に響き渡っていました。

これでもう、何をしても無駄ですね。

もう遅刻しているのですから、どうせなら派手に遅刻しましょう。

何事でも、やるなら全力で、と偉人達も言っていましたし。

今こそ、その精神を活かすべきでしょう。

「…じゃあ、四つ目の理由は?」

と、車椅子の男子生徒が尋ねました。

「四つ目ですか?四つ目は…」

と、私は少し考えてから、

「…何となくです」

と、私は言いました。

「…」

これには、車椅子の男子生徒も無言で、そして呆気に取られていました。

私の方も、特に思いつかないのです。

自分が何故、このような行為をするのか。

授業に遅刻すれば、何らかのペナルティが与えられるかもしれないというのに。

そんなリスクを犯してでも。

何となく、放っておけない気がしたのです。

何故なのでしょう?不思議な感覚です。

久露花局長に聞けば、答えをくれるでしょうか。

まぁ、どうせ過ぎたこと。後の祭りという奴です。

「気にせず、存分に一緒に遅刻しましょう。大丈夫です。授業に遅刻したから教師に殺された、というニュースは、未だ聞いたことはありません」

「…それは、俺もない」

「そうですか」

なら、安心ですね。

それに、もし教師が、遅刻した私達に向かって、火炎瓶片手に襲ってきたとしても。

そのときは、私が戦うとしましょう。

相手が私と同じ『新世界アンドロイド』でない限り、多分勝てるでしょうから。
ようやく、東棟に辿り着きました。

エレベーターのボタンを押し、しばらく待機していると。

「…あのさ、一つ聞いても良い?」

と、車椅子の男子生徒が尋ねました。

「遠慮しているのですか?一つと言わず、三つ四つ聞いてくれても構いませんよ」

と、私は答えました。

「あ、いや…。一つで良いんだけど…」

「そうですか。あなたは謙虚な方ですね」

「…」

と、男子生徒は無言でした。

褒めたつもりなのですが、何故黙るのでしょう。

「…久露花さん、だっけ」

と、男子生徒は口を開きました。

私の名前の確認のようです。

「はい。久露花瑠璃華と申します」

「久露花さんは、その…。どうして、いつもそういう…キャラ作り?をしてるの?」
 
「…?」

と、今度は私が首を傾げました。

「久露花さんは、それで楽しいのかもしれないけど…。周りの皆は、良く思ってないよ」

「…そうですね。どうやら私は、周囲から敬遠されている、と言うか嫌悪されているようです。自分でも理由が分かりません」

「…そのキャラ作りのせいじゃないの?」

と、車椅子の男子生徒は言いませんでしたか。

先程から、何度か頻出していますが。

そしてこれまでも、何度となく言われた記憶がありますが。

「どういう意味なのですか?その、キャラ作りという言葉は」

「…」

「キャラとは、キャラクター、つまり個性、性格のことですか?個性を問われましても、これが私のありのままですから、変えろと言われて変えることはなかなか難しいですね」

と、私は言いました。

「しかし、良い観点ですね。私の『新世界アンドロイド』としての個性が敬遠されているのだとしたら、私は永遠に、人間の友達を作ることは出来ないでしょうね」

と、私は言いました。

非常に困難な状況に置かれている、と言っても過言ではありません。

すると。

「…君も人間でしょ?」

と、車椅子の男子生徒が聞きました。

「?いいえ、始めに言ったように、私は人間ではなく、『新世界アンドロイド』です」

「…そういう設定の、人間でしょ?」

「人間のように振る舞えとは言われましたが、人間ではありません。私は『新世界アンドロイド』です」

「…」

と、車椅子の男子生徒は、無言でした。

…すると。

「…ふふ」

と、車椅子の男子生徒は笑いました。

笑われました。およそ一週間前から始まった学生生活の中で、初めての経験です。

これまでも、湯野さん含むクラスメイトに、笑われたことはありますが。

彼女達のような、ニヤニヤクスクスの悪癖笑顔ではない。

研究所で、久露花局長や朝比奈副局長が、私に向けてくれる類の笑顔です。

驚きました。

この世界の高校生達は、きっとそういう笑顔は出来ないのだと思っていました。

あまりにも、悪癖笑顔を見慣れ過ぎて。

私は人類を侮っていたのでしょうか。申し訳ありません。

しかし、笑われた理由は分かりません。

「何か面白いものでも見えたのですか?」

と、私は尋ねました。

同時に、丁度エレベーターが、二階に到着しました。

これから、西棟の端っこにある理科室に向かうことになります。

「いや…面白いものって言うか、君が面白いなって」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

なんと。

衝撃の事実です。

「私が面白いのですか?」

「うん、一周回って、むしろ面白いなって」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

私に心はありませんが、大変な衝撃を受けています。