アンドロイド・ニューワールド

危険な花から、何とか逃げ出してきたと思ったら。

今度は、更に鬱蒼として、いかにも危険そうな植物達が待っていました。

私はもしかして、危険を避けるつもりで、更に危険な場所に来てしまったのでは?

と、危惧していると。

「あ、瑠璃華さん。あれ、カカオ、」

「敵襲ですか!?」

「…敵襲は来ないから。カカオの木があるよって言いたかったんだよ」

「なんだ、カカオですか…」

と、私は言いました。

カカオの木なら、こちらを攻撃してくることはないでしょう。

ん?カカオ?

カカオと言えば、チョコレートの原材料ですよね。

図らずも私は、久露花局長の大好物の原材料を、ここで見ることになりました。

こんな木なんですね。

「意外に、何の変哲もなさそうな木ですが…。これが、チョコレートの原材料なんですね」

「これって言うか、この木から出来るカカオの実が原材料なんだよね」

「成程、では今度局長に、この木の苗をプレゼントしましょう。自家製チョコレートを作れますね」

「…俺、チョコレートの作り方なんて知らないけど…多分、苗を植えてからチョコレートが出来るまで、物凄い長い工程があると思うよ」

と、奏さんは言いました。

そうなんですか?

すると。

「…!奏さん、あれを見てください」

「今度は何?」

「独特な葉っぱの形状です。あれは、人を絡め取って樹液にする腹積もりなのでは…!?」

「いや、そんなことはないでしょうよ…。ほら、ソテツだって。花も咲いてるよ」

「実に毒々しいですね…。何か企んでる花ですよ、これは…」

「花が何を企むの…?」

と、奏さんは言いました。

が、こちらも危険ですので。

さっさと先に進みましょう。

すると。

その先に、見てはいけないものを見てしまいました。

「奏さん…!敵襲です!」

「ちょ、何そのファイティングポーズは?恥ずかしい。恥ずかしいからやめてって」

と、奏さんは言いましたが。

やめる訳にはいきません。

何せ、私の前に立ちはだかっているのは、かの名高き。

「ついに出会ってしまいましたね、ウツボカズラ…」

と、私は言いました。

そう、食虫植物です。

危うく手を触れれば、奴らの樹液で溶かされてしまいます。

実に恐ろしい、人食い植物なのです。

私は人ではないので大丈夫ですが、奏さんには、充分な危険があります。

「な、成程食虫植物か…。いかにも瑠璃華さんが興味を持ちそうではあるけど…」

「やはり、草刈り機を持ってくるべきでした…」

「うん、勝手に刈ったら、上の人に物凄く怒られるからやめようね」

「逃げましょう奏さん。奴らは所詮、移動手段を持ちません。こちらが逃げれば、追っては来られないでしょう」

「はいはい」

と、奏さんは言いました。

私は、慌てて車椅子を押し、ウツボカズラに背を向けました。

…かと思ったら。

今度は、更に危険な匂いがする植物が、私と奏さんを待ち受けていました。
「出ましたね、サボテン…!」

「あー…。出ちゃったかー…。瑠璃華さんのターゲット…」

「ここで会ったが約500年目、いずれ戦う宿命だと思っていました」

「結構長い間待ってたんだね」

「その刺々しい体躯、毒々しく分厚い鋸歯…実に好戦的な植物です。やれるものならやってみろ、と挑発されている気分です」

「好戦的な植物って…凄いパワーワードだな…」

「しかも見てください。花まで咲かせている奴もいますよ。生意気にも程があります」

「花咲いてたら生意気なの?」

「これは危険植物です…。決して近寄ってはいけません」

「うん、でもあそこにいるカップルは、思いっきりサボテン見てるよ?写真まで撮って」

「あの二人は爆発するから良いんです」

「…勝手に爆破しないであげて…」

と、奏さんは言いました。

奏さんは優しいから、情けをかけてあげるかもしれませんが。

私は、見境なく敵に塩を送るつもりはありません。

ん?しかしこの場合、植物が相手なので、塩を送るのは有効なのでは?

と、考えていると。

「大丈夫だよ瑠璃華さん。サボテンって言っても、俺達の半分の背丈もないよ。襲われたりしないって」

と、奏さんは言いました。

非常に楽観的な思考と言わざるを得ません。

その油断が、命取りになるのです。

どんな浅瀬でも、溺死者が出るように。

膝丈のサボテンでも、人を殺せるかもしれません。

「分かりませんよ。いきなり巨大化して、私達を攻撃してくる可能性があります」

「…瑠璃華さん、何かそんな…映画でも見たの?」

「はい。『Neo Sanctus Floralia』にいたとき、『巨大サボテン襲来』という映画を見たことがあります」

「…絶対その映画のせいだな…」

「巨大化すれば、サボテンは私達を追ってくることも出来ます。急いで逃げましょう」

「あのカップルには?逃げるように言わなくて良いの?」

「あの二人は爆発するから良いんです」

「…可哀想…」

と、奏さんは呟いていましたが。

私はサボテンゾーンを、急いで抜け出しました。

向かう先に、安全圏があると信じて。
サボテンの脅威から逃れ。

私と奏さんは、ようやく熱帯地域植物館から脱出しました。

お互い無傷です。

無事に、再び陽の光を浴びることが出来て、良かったです。

猛獣が眠る檻の中を横断した気分ですね。

さて、それはさておき。

「ん?次もまた建物がありますね。何でしょう?」

と、私は聞きました。

「さっきの植物館よりは小さいね。何だろう?人だかり出来てる」

「あ、さっきのカップルもいますね…。まだ爆発してなかったんですか」

「…何か恨みでもあるの…?」

「とりあえず、行ってみましょう」

と、私は言いました。

奏さんと共に、その人だかりの出来た建物に向かうと。

そこには、『青いバラ記念館』という看板が立っていました。

青いバラ?

『Neo Sanctus Floralia』のエンブレムでもありますね。

「あ、これ聞いたことある。青いバラを作るのって難しくて、全国でもほとんど存在しないらしいけど…」

「その貴重な一本が、ここに展示されてるということですか」

「そうみたいだね」

と、奏さんは言いました。

二人で建物の中に入り、人だかりの出来た中央付近に向かうと。

確かにそこには、可憐に咲く青いバラがありました。

たった一本なのですが、その可憐な青い色のせいか、威厳を感じさせます。

「凄っ…。綺麗だね」

「はい。私も、実物は初めて見ましたね」

と、私は言いました。

柵の前には、この一本の青いバラを寄贈するに当たって、記念として送られた石碑と。

そして、これまた記念として、本物の青いバラに負けないくらいの存在感と輝きを持つ、青い薔薇のブローチが、ガラスケースに飾られていました。

本物のバラは当然綺麗ですが。

このブローチもブローチで、光沢があってとても美しいですね。

『Neo Sanctus Floralia』にも、同じものがあります。

これも何かの因果でしょうか。

「…奏さん、青いバラの花言葉ってご存知ですか?」

「え?青いバラの花言葉…。何だろう?赤は愛の証、黄色は…嫉妬だっけ?青は…何なんだろう?悲しみ…とか?」

「いいえ、違います」

と、私は言いました。

青いバラは、『Neo Sanctus Floralia』のエンブレム。

だから私は、この世に生まれたときから、この花の意味を知っています。

「青いバラの花言葉は、不可能。そして…奇跡です」

と、私は言いました。

過去の偉人達もまた、この儚い花の意味を知っていたからこそ。

この花を、自らを示す証にしたのでしょう。

「へぇ…そうなんだ。何だか相反する意味だけど…。勉強になるね」

「えぇ。これを見れただけでも、今日ここに来た甲斐があります」

「うん。本物の青いバラなんて、滅多に見る機会ないもんね」

と、奏さんは言いました。
とても貴重なものを見た後。

私と奏さんは、お土産コーナーに向かいました。

最早恒例ですね。

「瑠璃華さん、またキーホルダーでしょ?折角だし、この青いバラの…」

「私はサボテンのキーホルダーにするので、奏さんはウツボカズラにしましょう」

「…何となく分かってはいたけど…。俺の…選択権って…」

と、奏さんは呟いていましたが。

やがて、諦めたように顔を上げました。

そして。

「瑠璃華さん、折角だから、青いバラのキーホルダーも買っていこうよ。俺が出すから」

「え?」

「お互い初めて青いバラを見た記念に。どう?」

と、奏さんは聞きました。

青いバラを見た記念に…ですか。

しかも二人で同じものを買うということは、それって。

友達同士でお揃い、ってことですよね?

確か『猿でも分かる!親友の作り方』にも書いてありました。

二人でお揃いのアイテムを持つこと、と。

成程、それは良い案かもしれません。

「分かりました。ではお揃いにしましょう」

「ありがとう。じゃあ買ってくる」

「私の分は、私が出しますよ」

と、私は言いました。

お財布を出しながら。

しかし。

「ううん、大丈夫。今回は俺が誘ったんだし、それに瑠璃華さんには、いつも車椅子押してもらったり、期末試験のときにも、俺用にテキスト作ったりしてくれたから。そのお礼」

「いえ、その程度、お礼をされるようなことでは…」

「いや、これは下らない男のプライドだから。そうさせて」

と、奏さんは強引に言い切りました。

男のプライド…前にも言っていましたね。

奏さんにとっては、大事なことなのでしょう。

今までのキーホルダーは、お互い割り勘をしていたのに。

今回の青バラだけは、プレゼントされてしまいました。

何だか申し訳ない気もしますが…。

ここは、奏さんの気持ちを尊重した方が良いと判断しました。

「はい、瑠璃華さん。これ」

と、奏さんは会計を済ませて、青いバラのキーホルダーを手渡してくれました。

全く同じキーホルダーを、奏さんも手のひらに握っていました。

これで、お揃いですね。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

と、奏さんは言いました。

これで、累計キーホルダーの個数は、4個。

一つ500円程度の、ありふれたキーホルダーですが。

私と奏さんにとっては、とても貴重な、友情の証となることでしょう。
…と、平和な日々を過ごしていた、ある日のこと。

その日は、朝から全校集会がありました。

何と言うこともない、定期的に行われる集会です。

その内容も、ただ各委員会から定期報告があるだけの、形式だけのもの。

ようは、あくびをしながら聞いていれば丁度良いくらいの、ありふれた集会でした。

私は『新世界アンドロイド』なので、あくびは出ませんが。

問題が起きたのは、その全校集会ではなく。

全校集会が終わって、通常通り授業が始まり。

昼休みを迎えたときのことでした。
「今日の昼食は、焼きそばパンとチョコチップメロンパンにしました」

と、私は言いました。

つい先程、購買部で買ってきたものです。

「相変わらず、焼きそばパン好きだね、瑠璃華さんは…」

と、奏さんは言いました。

今日の奏さんの昼食は、登校時にコンビニに寄って買ってきた、ベーグルサンドのようです。

ベーグルサンド。私は食べたことがありませんね。

ドーナツなら、食べたことがありますよ。チョコドーナツです。

勿論、久露花局長からのお裾分けです。

しかし奏さんのベーグルサンドには、チョコの要素は全く入ってない様子。

それどころか、ハムやチーズ、レタスなどが挟まれています。

形状は、ドーナツと同じく真ん中に穴が空いているのに、ベーグルサンドは甘くないのでしょうか。

興味深いので、今度私もベーグルサンドを買ってみることにしましょう。

世の中には、甘いもの以外の食べ物も、たくさんあるのですね。

『人間交流プログラム』を始めてから、私はそれを学びました。

「この食べ物が私にとって、『人間交流プログラム』の原点のようなものですからね」

「そ、そうなんだ…。焼きそばパンが原点って…。人生分からないものだね」

「そうですね。私は人ではなく、『新世界アンドロイド』ですが」

と、私は言いました。

そして、焼きそばパンに齧りつきました。

うん、相変わらず、変わらない安心感を覚える味ですね。

こういうのを、実家のような安心感、と言うのです。

しかし、誰にとっても実家が安心感を覚える場所である、とは限らないので。

この言葉は、万能ではありませんね。

私にとって、実家である『Neo Sanctus Floralia』第4局は、安心感を感じる場所ですが。

奏さんにとっては、実家は安心も何も出来ない場所となっていますから。

それなら、奏さんにとって安心出来る場所って、何処なんでしょう?

と、考えていたそのときでした。

「ちょっと、久露花さん」

と、クラスメイト女子生徒は、私に声をかけました。

何でしょうか?

「はい?」

「廊下で、あなたに会いたいって人が舞ってるんだけど…」

と、クラスメイトの女子生徒は言いました。

私に会いたい人?

「誰でしょう。教師ですか?」

「生徒会長よ」

と、クラスメイトの女子生徒は言いました。

生徒会長?

「生徒会長と言うと…今朝、全校集会で喋ってた人ですか?」

と、私は奏さんの方を向いて聞きました。

「そ、そうだけど…。何で、生徒会長が瑠璃華さんを名指しで?」

「さぁ。全く身に覚えがありません」

「とにかく、私は伝えたから。早く行ってあげてよ」

と、クラスメイトの女子生徒は、若干苛ついたように言いました。

伝言を頼まれただけで、何故怒るのでしょう。

カルシウム不足が懸念されます。

「とりあえず、行ってみましょうか。奏さん、私の焼きそばパンを見張っててください」

「み、見張るって…。誰も盗ったりしないよ」

「あ、ですが奏さんは親友なので、ちょっと齧っても良いですよ」

「…それは有り得ないでしょ…。こんな、丸齧り出来る食べ物で…」

と、奏さんは呆れ顔で、意味不明なことを言いました。

親友と食べ物をシェアすることに、何の問題が?

ともあれ。

呼ばれる覚えはありませんが、廊下で生徒会長が待っているなら、行ってみなければいけませんね。

私は昼食の摂取を断念し、席を立ちました。
廊下に出ると、確かにそこには、今今朝全校集会で見たばかりの生徒会長が立っていました。

しかも、周囲にはこちらの様子を窺うように、ちらほらとギャラリーがこちらをチラチラ見ています。

あ、この人、よく見たら。

以前期末試験の成績上位者リストを見ていたとき。

こっそり、掲示板を盗み見ていた男子生徒ですね。

そして今日はまた、こうして高校一年生の階にわざわざやって来て。

一体何の用なのでしょうか?

「私に何か御用でしょうか?」

と、私は生徒会長に訪ねました。

一介の生徒に過ぎない私に、生徒会長が何の用かと思ったら。

「あ、えぇと…久露花さん、だったよね」

と、生徒会長は言いました。

「はい、いかにも久露花瑠璃華ですが」

「良かった。君に話したいことがあるんだけど」

「何ですか?」

と、私は聞きました。

私だけでなく、こっそり私と生徒会長の会話を盗み聞きしているギャラリー達も、耳をそばだてていました。

「俺、初めて見たときから君のことがずっと気になってたんだ。良かったら、俺と付き合ってくれないか?」

「何処にですか?」

「えっ」

と、生徒会長は言いました。

まるで意表を突かれたかのような顔で。

ついでに言うと、周囲のギャラリーも唖然としていました。

理解不能です。

付き合ってくれと言うから、何処に付き合えば良いのか聞いただけです。

何処に付き合うのかも分からず、承諾する訳にはいきません。

もしかしたら、「ちょっとヒマラヤ登山に付き合ってくれない?」と言われるのかもしれないじゃないですか。

そうしたら、雪山グッズを揃えなければなりませんし、すぐにOKとは言えません。

すると。

「え、えぇと…。く、久露花さん」

と、生徒会長は戸惑ったように言いました。

「何でしょうか」

「一応聞いておくけど…よく一緒にいる、あのクラスメイトの車椅子の人」

「奏さんのことですか?」

「あ、そんな名前なの?その人とは、付き合って…いや、恋人同士な訳じゃないんだよね?」

と、生徒会長は聞きました。

何ですか。その確認するみたいな言い方は。

「はい。恋人ではありませんね」

と、私は答えました。

私と奏さんは親友です。親友と恋人はイコールではありません。

「だったら良かった」

と、生徒会長は安心したように言いました。

…何が良かったんですか?
「なら、久露花さん。俺の恋人になって欲しいんだ」

と、生徒会長は言いました。

これは衝撃の告白です。

クラスメイトに、「友達になってくれ」と頼んでも、奏さん以外まるで相手にされなかった私が。

なんと今、生徒会長に、「恋人になってくれ」と、向こうから頼まれました。

これは衝撃ですね。

人生で初めての体験です。

「どうかな?」

と、生徒会長は聞きました。

すると、ギャラリーが小声で、ひそひそ言っているのが聞こえました。

「嘘、何で生徒会長があんな奴と?」

「えぇ〜…。ショック…。私も生徒会長好きだったのに」

「私も。まさかあんな奴を選ぶなんて」

と、ギャラリーは言いました。

あんな奴って、私のことですか?

「嫌なら、無理にとは言わないけど…」

と、生徒会長は言いました。

…ふむ。

「済みませんが、ちょっと考えさせてください」

と、私は言いました。

私は現在、紺奈局長が考案した『人間交流プログラム』を実行中の身です。

その内容は、人間との関わりを経験するにつれて、人間の感情を理解することにあります。

そして人間の感情を理解するには、出来るだけ多くの人間と接し、人によって違うその感情の機微を学習し。

それを自らのものにするというのが、このプログラムの大題です。

今現在、私には親友の奏さんがいますが。

しかし、私の周囲にいるのは、何故か奏さん一人だけです。

勿論、奏さん一人だけでも、充分多くの感情を学ばせて頂きましたが。

ここに来て、初めて相手の方からお誘いを受けました。

友達ではなく、恋人関係だそうですが。

それはそれで、悪くないかもしれません。

今度は、奏さんとは違う視点から、人間の感情を学ぶことが出来るでしょう。

そう思えば、この申し出は悪くありません。

と、ここまで考えること、僅か1秒未満。

「勿論、ゆっくり考えてくれれば、」

「分かりました。そのお誘い、お受けします」

「え、はやっ」

と、生徒会長は言いました。

え?私、ちょっと考えるって言いましたよね?

ちゃんと考えましたよ。

「良いの?本当に?」

「はい、構いませんよ」

と、私は言いました。

「あぁ、良かったぁ…。断られたらどうしようって思ってたんだよ」

と、生徒会長は、大袈裟なまでに安堵して言いました。

「じゃあ、今日の放課後にでも、一緒に帰らない?」

「いえ、今日は部活があるので無理ですね」

と、私は答えました。

何の部活かと言うと、それは奏さんとの仮バドミントン部です。

「そうか…。じゃ、明日は?」

「そうですね。明日なら良いですよ」

「良かった。なら、明日一緒に帰ろうか。玄関口のところで待ってるから」

「はい、分かりました」

と、私は答えました。

すると生徒会長は、大変満足したような笑顔で手を振り、去っていきました。

…何でしょう。

親友以外に、恋人というポジションから私の『人間交流プログラム』に貢献してくださる、貴重な方を見つけたというのに。

私は今とても、胸の奥の方に、異物感を感じます。
生徒会長が私に告白してきたのは、昼休みのことだったのですが。

その日の放課後になる頃には、クラスメイトの全員が知るところになっていました。

噂が噂を呼び…という奴ですね。

皆さん、噂話が好きなのでしょうか。

あまり良い趣味だとは思えませんね。

それはともかく、放課後になったので。

「では奏さん。バドミントンしに行きましょうか」 

「えっ…あ…うん…」

と、奏さんは非常に歯切れの悪い返事をしました。

…?どうしたのでしょう。

「どうかしましたか、奏さん」

「あ、いや…何でもない…ん、だけど」

「けど?」

「良いの?放課後、俺と一緒に過ごして…。だって瑠璃華さんにはもう、生徒会長が…」

と、奏さんは不思議なことを言いました。

生徒会長と奏さんと、何の関係があるのでしょうか。

「?それとこれと、何か関係がありますか?」

「…それは…」

「では行きましょう。明日は卓球部の練習日ですし。今日のうちに行かなければ」

と、私は言いました。

が、奏さんはいつになく、落ち込んだ表情のままでした。

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