すっかり三個のパンを食べ終えた頃には、さっきまでのイライラは消えていた。


「うまかったですか?」

「ええ、とっても」

「それはよかった。お替わりはどうですか?」

「じゃあ、コーヒーを」


遠慮しない私。

図々しいかな?


と思っていると、さっきの女性がコーヒーポットを持ってやってきた。


「先程は、ありがとうございます」


とお礼を言うと、


「気にしないでください。化粧水はお肌に合うか分からないですけど」


と、ニコッと微笑んでコーヒーを淹れてくれた。



うん、確かに。

いつも私の使っている化粧水は高級品だから。

でもこの際、文句なんて言えないし。



「大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」


お辞儀をすると、男は立ち上がった。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね」


と、自分と女性の紹介を始める。


男は、平瀬 大悟(ヒラセ ダイゴ)さん。

この家具屋で働きながら家具職人の修行をしているらしい。


女性は、結城 睦(ユウキ ムツミ)さん。

ここのオーナーの次女で、隣に併設しているパン屋を母親と姉夫婦の四人で切り盛りしている、と話してくれた。