家に上がる頃にはすっかりいつもの海鳳に戻っていて、いつも通り私へ気遣いをしてくれた。

考えないようにしても胸のもやもやは積もっていくばかり。  側に居れるだけで充分すぎる幸せだと思っていたのに、どんどんと欲張りになってしまう。

その日、早乙女家での夕食は何とも楽し気なものだった。
海鳳のお母さんが美味しい手料理でもてなしてくれて、お酒までご馳走になった。

考えて見たら不思議な物だ。 幼い頃来た時は大きな白いお城だったと憧れたものだけど、その家族の一員となっているのだ。

憧れていた場所と、ずっと好きだった王子様と一緒に居れるのに何故こんなに不安になるの…? これ以上なんて望まないと何度も誓ったのに、もっともっと欲しくなってしまうのは何故…?

小さい頃お城みたいだと思っていたお家は、今見てもやっぱり素敵だったけれどここは高級住宅街。辺りを見回せば似たような造りの家がいくつもある。

どこまでも深く迷ってしまいそうな森のようだったお庭も、大きくなった今は一周するのも容易い。  けれどあの頃と同じよう、春の花が変わらずに咲き誇っている。

あの日、王子様のような海鳳の出会いの中でピアノの音色が揺れている。