けれど桜子さんは名残惜しそうにまだ海鳳の事を見つめていた。 二人の姿を見ているだけで、胸がずきりと痛む。
こんなの分かっていた事なのに、海鳳がどれだけ長い間桜子さんを想ってきたかなんて、私と結婚したってその気持ちが変わる事もないって。
だけど胸の中が真っ黒になっていく憂鬱な気分。 そんな資格ないくせに、やきもちを妬いて心ばかり苦しくなるんだ。
「きゃーっ、雪穂ちゃんっ!ようこそ我が家へ!
今日は雪穂ちゃんが来るって聞いてすっごく楽しみにしてたんだからっ。
相変わらず可愛いぃぃっ!大好きぃいっ!」
出迎えてくれた早乙女家の中で一番に凪咲さんがぎゅっと私を抱きしめる。
女性にしては背の高い凪咲さんの胸にすっぽりと包まれる。 この大歓迎は今日に始まった事じゃない。
「ちょっと凪咲…雪穂さんが困っているじゃないの」
「今日もお姫様っ…。海鳳にはもったいないの」
「もぉ…凪咲ったら…。 ささ、雪穂さんも海鳳も上がって頂戴。
もう少し早く来ていたら桜子ちゃんと陸人さんともゆっくりお話し出来たのにね」